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第422話

「………ん、」 滑った生温かいものが、歯列をこじ開け咥内(くち)いっぱいに押し込まれる。 溺れるような感覚。じりじりと痺れていく脳内。息をしようとも、それを許さない程に咥内を弄られ、劣情を含んだ唾液が流し込まれ── 「はぁ……ぁ、……っ、」 ……違った…… 微睡みの中、痺れる脳裏に映ったのは……僕から暴漢を引き剥がす、猟奇的な男の影。 それがゆらりと揺れながら近付き、視界いっばいに映り込めば……その人物が誰なのか、初めて気付かされる。 ………ハイジじゃ、なかった…… いつだってそう。 僕が何かを望んだ瞬間──拠り所にしていたものが、いとも簡単に打ち砕かれる。 奪い取られる。 小さな希望も、心地良い居場所も、愛する人も…… だから、全てを諦めて……ただ運命に身を任せるしかない。 意思なんて持たず、ただ流されていれば……もう、傷付く事はないから。 風に舞って散りゆく、さくらの花弁のように─── 「相変わらず、良い匂いすんなァ」 「……」 剥き出された首筋。そこに顔を埋め貪りつきながら、男が太腿の上を厭らしく撫で回す。そして一度身体を起こし僕を見下げた後、腿裏までその手を滑らせ、グイと大きく持ち上げた。 ズッ、……ズッ…… 僕の片足を肩に担ぎ、何の前触れもなく打ち込まれる、男の楔。 「………あぁ、ぁ………堪んねぇ……」 恍惚とした表情。熱く震える溜め息。 パンッ、パンッ、パンッ── 抽送が激しくなるにつれ、大きく揺さぶられる僕の身体。 黒く渦巻いた欲望に飲み込まれる度、逃れきれない快感の雄叫びを漏らす──太一。 「下にいる女よりもそそられるし、(ケツ)の締まり具合もいい」 「……」 「この身体を、アイツらが堪能してたかと思うと……やっぱ惜しい事した、ぜ……!」 「──っ、」 ズンッ……! 言い終わるか終わらないうちに、最奥を強く突かれる。 途端に萌ゆる、甘い痺れ。 ビリビリと快感が波紋のように広がり、意思から切り離された身体は、その本能のままびくん…、と反応を示す。 「………」 それでも。 他に何の反応もない──抵抗すらしない僕が気に入らないのか。足を抱えたまま僕に覆い被さり、荒々しい息を吐きながら僕の耳元に唇を近付ける。 「………なぁ、姫──考えた事ねぇか? 何で俺らは、こんな樹海のような暗闇の世界に足を踏み入れて、迷い込んじまったんだろうなァ、って……」

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