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第425話

──ズンッ ギリギリまで引き抜かれた後、直ぐに打ち込まれる楔。先程よりも深く突かれ、その衝撃で本能的に頭を擡げる。 両手を付き、震える肘を伸ばそうとすれば、それを許さないと太一が僕の後頭部を鷲掴み、床へと沈める。 「基成(キング)はな、スネイクリーダーを下りたにも関わらず、虎龍会の奴等(下っ端)に奇襲をかけられたらしい。 大方ソイツらは、知らされずに決行したか……或いは、個人的な恨みでもあったんだろ。 基成(キング)の綺麗な顔がぐちゃぐちゃになって、……それはそれは、見るも無惨だったらしいぜ」 ──え…… 遠くから聞こえる、太一のくぐもった声。それが、あの雨の日──屋久と吉岡の会話や映像とが重なりながら、マーブル状に蠢く。 「……姿を眩ました後、密かに整形し、別人として新たにこのチームを立ち上げたけどなァ…… 基成を崇拝していた吉岡は、ヤツが死んだものだと思い込んで……勝手にその意志を引き継いじまった。 ……でも、引き継いだのは……それだけじゃねぇぜ」 「………」 「お前も聞いたろ? 屋敷(いえ)の廊下で、事後の若葉に声を掛けられたってェ話──」 『似ている』──そう、声を掛けられたって、確か吉岡が…… 「──あれは全部、基成の話だ」 え…… 一瞬、頭の中がフリーズする。 「……」 ……でも、言われてみれば……確かに──雰囲気も喋り方も、何処となく屋久に似ていた。だけど…… ザァァ── 降り(しき)る雨の中……巡査官扮する『八雲』が『屋久』だと気付いた吉岡から、すっかり毒気が抜け落ちていて……それまで発せられたオーラや声の張りは、微塵も感じられなかった…… 「虎龍会お抱えの女王──『若葉』を、基成に為りきってモノにしようと動き出した吉岡を……モノホンの基成は、テメエの手を汚さずに操ってたんだ」 「……」 「そんで──計画通り、先に菊地を始末し、姫を奪還した所までは良かったが……その後の予定が全て狂っちまった。 ……何でか解るか、お姫サマ」 太一が背後から迫り、床に片手をついて僕の項に唇を寄せる。 「ひとつは、それまで傍観していた基泰が、姫を抱きてぇとぼやき始めた事。 そしてもうひとつは── 若葉が、目を覚ましたからだ」 「──!」 ズクンッ…… 心臓を、何か大きなものに抉られる。 身体から切り離し、守ろうとした心まで──太一の大きな手が迫り、鷲掴んで握り潰す。 ……若葉が……目を覚ました……? だから屋久は、五十嵐の味方のフリをして、行き先の変更を………?

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