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第426話
『若葉の時代は、もう終わったも同然』
『……次は、姫の番だ』
思い出されたのは、いつかの夢。
窓辺に佇む僕の背後から屋久が襲い掛かり──耳元で囁かれる、残酷な言葉。
息が、止まる。
あんな──ひと目で相手を魅了し、心を惹き付けて離さない若葉の身代わりに……僕が、なんて……
だって……
今まで若葉が取り憑いたようになったのは……昏睡状態の若葉が──
「………」
……あれ……
待って。
移動中の車内では、既に若葉は目覚めていたって、さっき──
それじゃあ……僕に襲い掛かろうとする愁を、手懐けようとしたアレは……
──『僕』、だったの……?
ドクンッ、と大きく心臓が鼓動を打つ。
床に付いた両手を、キュッと強く握り締める。
もしかして……今までのも全部……
僕自身が、僕の意志でやってたって事……?
「……」
視界が大きく滲んだ後、立ち眩んだようにじりじりと頭が痺れ、目の前が暗転していく。
やっとの思いで息を吸い込めば、ひゅっと小さく喉が鳴った。
血の、せい──?
……僕の中に流れている、若葉の……
ドクン、ドクン、ドクン……
脈動する度に、身体中の血液が逆流していく。
痺れる脳内。熱く震える身体。
容赦なく太一の凶器が抽送を繰り返せば、僕の足先から指先まで、びりびりと甘い電流が駆け抜ける。
「──っ、!」
その瞬間──脳裏を過ったのは……酷く怯えたハイジの姿──
……同じだ……
あの時のハイジと、僕──
怖い。……凄く、怖い。
心の中が、汚されていくような……嫌な感じがする。
僕自身も知らない『僕』。
眠っている『僕』。
普段は決して触れる事のない、その禁断の場所に……誤って触れて、揺り起こしてしまったような罪悪感と、沸き上がる高揚感。
内側から生まれし溢れる甘い疼きに、戸惑いながらも目を瞑って必死に抵抗する。
「……」
もし、太一の話が本当なら……
……あの『僕』は……誰……?
本当の僕は……一体何者 なの……?
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