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第429話
×××
………はぁ、はぁ、はぁ、
同じ……だ……
あの時と、何も変わらない。
この感覚も、景色も、何もかも。
仰向けのまま……薄汚れた天井をぼぅっと眺めていると、果てた男が視界から退いていき、次に現れた男が僕の両足を抱え上げる。
「………」
ズッズッズッズッ──
突かれる度に揺れる天井。
無理矢理こじ開けられた痛みは遠退き、もう……その感覚すらない。
「………おまえ、」
僕のナカに欲望を放った太一が、眉間に皺を寄せ僕を見下ろしたまま、徐に僕の首に両手を掛ける。
喉仏の下部にある窪み。そこに親指を重ね、上からグッと圧し込む。ギラギラとした眼。僕に威圧感を与えながら、痩せ細った首を絞める。
上擦った呼吸。
怒りからなのか。その真意は解らないけど、力を籠めた両手が小刻みに震えていた。
「……」
……確か……
幼い頃、母にもこうされたんだっけ……
でも……何でこんな事をするんだろう。
僕を見限ったりしないって、さっき言ったばかりだよね。
矛盾してる。可笑しいの……
霞みゆく視界の中じっと太一を見つめていれば、ふと我に返ったのか……僅かに目を見開いた太一が、その両手を緩めスッと離す。
──バチンッ
突然、頭の中で蒼い火花が散る。
それは、電球の球が切れた時のような音に似ていて。
その瞬間──ストロボのように目の前が眩い光の世界に包まれ、眩んだ目を柔く閉じる。
「………なァ、お姫サマ。覚えてるか……?」
太一のくぐもった声。
光が消えたのを感じ、ゆっくりと瞼を持ち上げれば……
何処から現れたのか。目の前にぶら下がるのは、黒くて長い紐状のもの──
「──っ、!!」
げほっ、……ハァはぁ、はぁ……
一気に吸い込まれる空気。ひゅぅっ、と喉から奇妙な音が鳴った後、息苦しさに堪え兼ね、激しく咳き込む。
そんな僕を気に留めず、太一が僕の首にそれを巻き付ける。身体を丸めようとする僕を、乱暴に上から押さえつけながら。
「どうだ、懐かしいだろ」
──ジャラ
顔を歪めた太一が、僕の首に括ったものを指で引っ掛けて持ち上げる。
黒革の首輪。その上を滑る、二連の細い鎖。
「……」
何処かしっくりとくる感触。
懐かしい締め付けと重み。
……これ……は……
「さァこれから、周りにいる奴等一人一人に、ご奉仕して貰うぜ。……奴隷 姫よォ」
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