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第438話

……ふぅ、ふぅ………ふぐぅ″うぅ……… 思いっ切り歯を立てているんだろう。それでも離そうとしない腕を、グイと引っ張る。引き千切るかの如く、強く噛み付いたまま…… 「──!」 その刹那、沢山の映像が脳裏に溢れてきて── 『……ごめん、なさ……』『俺、さくら好き』『さくら、助けたい』『だから……元気、出して?』 これまでの数日間、一緒に過ごしてきた中で知った、本当の蕾の姿。 其れ等が走馬灯の如く、浮かび上がっては消えていく。 『さくらに非道い事……した」『……壊れるさくら、見たくない』『……』 ……蕾は、戦ってる。 運命に抗おうとしてる。 「………らい」 そっと声を掛け、涙で濡れた蕾の頬にゆっくりと手を伸ばせば……恨めしそうに黒眼だけを動かし、僕を見据える。 「大丈夫だよ、蕾……」 鋭い視線にも怯まず、真っ直ぐ蕾を見つめる。折り曲げた人差し指の背で蕾の下瞼を拭い、さらりと落ちた横髪を耳に掛けた後……更に手を伸ばして項に指を掛ける。 「………大丈夫」 僕は、壊れたりなんかしないよ。 生きてる限り、何度でも立ち上がるから。 だから、そんなに自分を傷つけないで。 僕の為に、苦しい思いなんて……しなくていいから……… 「……」 微動だにしない、鋭い目付き。 ………あれ。 声にしたつもりだったけど……届いてなかったのかな…… もう一度言おうと、唇を動かそうとするけれど……酷く重くて、中々動かない。 「……」 あれ……酷く身体が怠い。 酷く指先が痺れて、酷く……瞼が重い。 ………もう、頭がうまく……回らない。 「さく、ら──!」 腕から力が抜け、蕾の項からするんと手が落ちた後──霞みゆく視界の中で、蕾の口が腕から外れたように見えた。 「………ぃ″、やだぁぁ──っ!」 ……蕾……叫んでるの……? 僕なら……大丈夫だよ……… ……身体がね、ちょっと疲れただけ。 少し……眠いだけだから…… だから…… ……そんなに………泣かない、で……

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