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第436話
……ふぅ、ふぅ………ふぐぅ″うぅ………
思いっ切り歯を立てているんだろう。それでも離そうとしない腕を、グイと引っ張る。引き千切るかの如く、強く噛み付いたまま……
「──!」
その瞬間、脳裏に沢山の映像が溢れて──
『……ごめん、なさ……』『俺、さくら好き』『さくら、助けたい』『だから……元気、出して?』
これまでの数日間、一緒に過ごしてきた中で知った、本当の蕾の姿。
其れ等がスライドショーの如く、浮かび上がっては消えていく。
『さくらに非道い事……した」『……壊れるさくら、見たくない』『……』
……蕾は、戦ってる。
運命に抗おうとしてる。
「………らい」
そっと声を掛け、涙で濡れた蕾の頬にゆっくりと手を伸ばせば……恨めしそうに黒眼だけを動かして、僕を見据える。
「大丈夫だよ、蕾……」
鋭い視線にも怯まず、真っ直ぐに蕾を見つめる。折り曲げた人差し指の背で蕾の下瞼を拭い、さらりと溢れた横髪を耳に掛けた後……更に手を伸ばして項に指を掛ける。
「………大丈夫」
僕は、壊れたりなんかしないよ。
生きてる限り、何度でも立ち上がるから。
だから、そんなに自分を傷つけないで。
僕の為に、苦しい思いなんて……しなくていいから………
「……」
微動だにしない、鋭い目付き。
………あれ。
声にしたつもりだったけど……蕾まで届いてなかったのかな……
もう一度言おうと、唇を動かそうとするけれど……酷く重くて、中々動かない。
「……」
あれ……酷く身体が怠い。
酷く指先が痺れて、酷く……瞼が重い。
………もう、頭がうまく……回らない。
「さく、ら──!」
腕から力が抜け、蕾の項からするんと手が落ちた後──霞みゆく視界の中で、蕾の口が腕から外れたように見えた。
「………ぃ″、やだぁぁ──っ!」
……蕾……叫んでるの……?
僕なら……大丈夫だよ………
……身体がね、ちょっと疲れただけ。
少し……眠いだけだから……
だから
そんなに………泣かないで……
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