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第441話

忠告、のつもりなんだろう。 もし持っているのが屋久にバレたら、僕だけじゃない。吉岡もMも、危うい立場になる。 ……でも、それなら何でわざわざ僕に見せたりしたんだ。 最初から渡すつもりがないのなら、吉岡の頼みなんて、断ればいいのに…… 「──いいよ、捨てなくて」 ガチャンッ、と閉まるドアの前に立つ屋久。 いつの間に入ってきたんだろう。全然気付かなかった。此方の様子を楽しげに眺めながら、ゆっくりと屋久が近付く。 「山本竜一、だっけ? 彼から貰った大切なもの、なんだってね」 「……」 僅かに驚きを見せたMの手からスッと取り上げ、僕に見せ付けるように箱から中身を取り出す。 「太一(イチ)達が、非道い事をしたね」 「……」 「安心しな。……基泰と蕾が、いま後始末をしている所だから」 「……」 後始末……って…… 驚きを隠せず、真っ直ぐ屋久を見つめれば、それに気付いた屋久が静かに僕を見下ろす。 「そんなに太一が心配? 本当、変わらないね。……まぁ、そこが姫の良い所でもあるのかな」 キラリと光る、十字架のシルバーピアス。 僕の顔を覗き込んだ屋久が、僕の横髪に指を通して搔き上げ、剥き出された耳朶にそのピアスを当てる。 「……良く、似合ってるよ。 体調が戻ったら、ここに(ピアスホール)を開けようか」 「……」 「ところで……」 ピアスをスッと引っ込め、口の端を持ち上げて微笑む屋久。 「身体の具合は、どうかな?」 「……」 胸が締め付けられる程に、酷く優しい笑顔。だけど細めた蒼眼の奥には、何の感情も宿していない。 ベッドサイドに腰を下ろし、ピアスを箱に戻したその指先が、僕の頬にそっと触れる。そのまま軽く折り曲げられる四本の指。当てられる背面。 「………心配したんだよ、これでも」 少しだけ冷えた手。それが、ゆっくりと僕の肌上を滑り、僕から熱を奪う。 その様子を傍目に、Mが点滴袋をホルダーから外す。 「痛くて、怖かったよね」 「……」 「解るよ。……俺も昔、同じ様な目に遭った事があるから」 「……」 屋久の細めた目が、何処か遠くを映す。

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