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第443話

夜の繁華街に、しかも裏路地でランドセルを背負った小学生が潜む姿は、きっと怪しく映ったんだろう。 「──!」 後ろからガツンと殴られたような衝撃を受け、振り返る。そのせいで、ターゲットから目を外してしまった。 「………あぁ、なんだ。お前、親父ん所の基成じゃねぇか」 「……」 「こんな所で何してんだ。……ん? 迷子にでもなったか?」 高級スーツにオールバック、細身のサングラス。貫禄のある厳つい男が、屋久の前にしゃがみ込む。そして目線の高さを屋久に合わせれば、サングラス少しだけずらしてにこりと微笑む。 「親父には、俺から上手く言っといてやるから。……早く帰りな」 そう言って屋久の頭を撫でる。が、適当に遇われたと感じた屋久は、押し黙ったままその男を睨み上げた。 「……」 「………お前、見たな」 突然変わる、男の雰囲気と声のトーン。 しかし、ドスの利いたそれにも怯まず、屋久は睨みつけるのを止めなかった。 「ちょっと、おじさんと飯でも食いに行こうや」 「……」 ドス黒いオーラはそのままに、男が笑顔を浮かべてみせる。 そして、押し黙る屋久の手を軽々と引っ張り、煌びやかな繁華街へと溶け込んでいった。 「……その男が、桜井だ。 当然知ってるよね。菊地の実父ってのは」 「………」 ……え…… 意思に反して、見開かれていく目。そこに映り込む、愉しげな屋久の表情。 「幹部でありながら、他の奴らとは違い……俺を上手く(あしら)いながらも、目を掛けて可愛がってくれたんだ」 「……」 辿り着いたのは、歓楽街の外れにひっそりと佇む古びた小さな焼き鳥屋。 外壁の一部から飛び出た銀色の筒から、もうもうと立ち込める黒煙。煙い中にも香ばしい匂いが漂い、簡単に食欲をそそられる。 店内は想像以上に狭く、内装は古臭い。びらびらとぶら下がっているメニュー表。その紙は色褪せ、所々茶色く染み汚れている。カウンターや椅子に至っては、何処となくべとべととし、座るのを躊躇わせた。 「悪ぃな。ガキが好む店が良く解んなくてよ。……あぁ、ラーメンがあったな。次連れてってやる」 「……」 「まぁ食え。ここのは美味ぇぞ」 男──桜井が、焼鳥盛り合わせの中からつくねとももの串を拾い、屋久の取り皿に置く。 「お前、発見された時ガリガリに痩せてたんだってな。だからという訳じゃねぇが、……腹いっぱい食えよ」 「……」 「そうだ。焼おにぎり、食えるか?」 「……」 屋久の返事も聞かず、桜井がカウンター奥にいる初老の店員を呼び止め、勝手に追加注文をする。

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