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第445話

与えられた仕事をそつなく熟し、その期待以上の結果を出し示せば、周囲の大人達から存在を認められるようになった。そして、孤独に追い込まれた基泰に『共有』関係を結ぶべく、優しく手を差し伸べれば、初めて屋敷に来た時よりも優位に立てている事に気付く。 そのうち、世間を震撼させた半グレ集団『スネイク』のリーダー役に基成を、という話が桜井から持ち上がった。幹部の半数以上がそれに賛同。誰もが屋久に決まるものだと思っていた。 「………でも、親父は決して俺を認めなかった。 親父が選んだのは……統率力のない、ただ腕っぷしが強いだけの基泰だ」 「……」 「『血は水よりも濃い』──それを、まざまざと見せ付けられた。 俺はまだ、不様に親父の足下に縋りつく虫けらだと、思い知らされたんだ」 思い詰めたような、遠い目。 その声に、僅かながら寂しさが含まれているような気がした。 「……」 ………何となく、解る。 僕も母から、認めて貰えなかったから。 僕が何をしても、しなくても……母にとって僕は目障りな存在で。母の視界に入る度に、憎悪の眼が容赦なく向けられた。 ずっと、アゲハが羨ましかった。 無条件で愛される、アゲハの存在が。 羨ましくて、羨ましくて………いつの間にか疎ましくなり、気付けば、嫌いになっていた。 ……でも…… 屋久は、どうなんだろう。 二人は仲が良さそうに見えていたけど……本当は基泰の事、嫉ましく思っていたりするのかな…… 「……」 「何て顔、してんの……?」 じっと見つめていれば、それに気付いた屋久が僕に視線を落とす。 「………優しいんだね、お姫様は」 ふと口元を綻ばせ目を細めると、僕の前髪を優しく搔き上げる。少しだけ冷たい指先。その仕草は酷く優しくて…… 何故だか解らない。胸の底の方から切ないような感情が込み上げ、震えが止まらない。

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