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第446話
「結局……スネイクのリーダーは、蓋を開けてみれば、単なるお飾り。
当時少年院にいた菊地の代弁をするだけの、只の人形」
「……」
「だから……証明しようとしたんだよ。俺一人の力でもチームを束ね、更に巨大な組織にする事が出来る、とね」
「……」
その為に、屋久が目を付けたのが──麻薬密売。
数年間、麻薬の『運び』や『売り』をやっていた関係で、そのルートや顧客を増やすノウハウは心得ていた。
知り合いから紹介された製造元や栽培者に直接会い、取引関係を結べば、スネイク独自の密売ルートが出来る。組織が潤うなら、屋久の横暴なやり方にも桜井は多少の目を瞑っていた。
「でもね。それを面白く思ってない奴がいた」
麻薬をシノギとする太田組幹部と、その元締め──桐谷。
通常ルートを介さず、桐谷が抱える製造元の一部から直接買いつけ、それを、昔馴染みの顧客の一部に、仲介料を省いた安い単価で密売。
そんな屋久の横行を、二人は黙っている筈はなかった。
「………お前か。最近幅を利かせてる、スネイクのリーダーってのは」
「……」
──トン、
左の横髪を掠めて突き抜ける、ダーツの矢。それが背後の壁に当たり、重力に従って落ちる。
とあるショットバーの個室。ドリンク片手にダーツを楽しむ、際どい服装の若い女性達。その奥──長椅子の真ん中を陣取って座り、その雰囲気を端から嗜んでいた中年の男が、箱から新たなダーツの矢を取り出す。
「桜井に可愛がられてるからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ。……この麻薬密売人 上がりが」
口の片端を吊り上げ、鋭い眼を下から睨みつければ、ダーツの矢を構えその先を屋久に向ける。
「………俺はなぁ、昔キャバ嬢だったお前の母親を、ちょっと世話してやった事があるんだ。美人で色気があって、そりゃあいい女でなぁ……俺のお陰で最下位から店の№2にまで上りつめたんだぜ。
なのにあの女、スかしてやがって。世話んなるだけ世話んなっておきながら、俺には何の見返りも寄越さねぇ。
『ギブアンドテイク』ってもんを知らねぇバカ女だからよ。アフターの時に、クスリを少し混ぜたドリンクを飲ませたんだよ」
「……」
「──美味かったぜ、最高にな」
その時の情事を思い出したのか。男が厭らしく舌舐めずりをする。
「少しずつ薬漬けにして、俺ナシじゃいられねぇオンナに飼い慣らしたのによ。……新人のプッシャー が、俺から麻薬と女盗んで飛びやがって──!」
──シュンッ
向けられたダーツの矢が、今度は屋久の右横髪を掠めた。
「………へぇ」
一寸もたじろぐ事なく男を見据えていた屋久が、クッと口の片端を持ち上げる。
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