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第449話

「………今後の取引だけどな」 身形を整え帰り支度をする桐谷が振り返り、床に転がったまま踞る屋久に声を掛ける。 「正規の価格に戻させて貰う」 「──!」 「解るだろう? 俺が、お前の口だけで満足できる男だと思うか? お前が女だったら話は別だが……毎回この程度なら、取引材料として割りに合わないんだよ」 「……」 何を、今更──そう思うも、覆す気力がない。 「──そうだ。 太田組に、美沢って奴がいるだろう。ソイツのオンナは、最高に美味いらしいな」 「……」 「お前(スネイク)の力で、そのオンナを俺に寄越せ。……少しは優遇してやる」 袖口のボタンを留めながら、桐谷がニヤリと笑う。 「散々俺を嬲り、屈辱を与えてきた桐谷に……それなりの対価を支払ってやりたくなった。……奴が一番大切にしているものをぶっ壊す、という対価をね」 「………」 「情報屋に調べさせたら、基和のクラスに桐谷の娘がいると解った。 十年以上前に離婚した女性との間に出来た子供で、桐谷は月に一度、一般人のフリして密かにその娘と会ってる」 「……」 「『隠す』って事は、それだけ大事な存在なんだと直感したよ。何せ、『血は水よりも濃い』んだからね」 その情報を知った日の深夜。 屋久は、基和の住む離れに向かおうと部屋を出る。 その道中親父の部屋の前を通ると、微かに聞こえる艶めかしい喘ぎ声。 瞬間、桐谷との行為が思い出され、咥内に広がる気持ち悪さを感じ、台所へと向かう。と…… 照明を落とした暗闇の中、水道の水を飲む基和の姿が。 「……」 「眠れないのか?」 背後から近付きそっと声を掛ければ、驚いた様子で、基和が振り返る。 それに悪びれる事も無く戸棚からグラスを取り出すと、基和の隣に立ち蛇口を捻って半分程水を汲む。 「………うん」 「俺もだ」 「……」 「……」 「……基成……」 グラスに口を付け、ゴクゴクと飲む基成の喉元を、基和が恥ずかしそうに下から見つめる。 「性処理、させられてるって……本当……?」 「……」 予想外の台詞に、喉の動きが止まる。目玉だけを動かし、視線を基和の方へと向ける。 バチンと目が合うと頬を僅かに赤らめ、照れた様子で視線を外す。 その反応に、屋久の唇が綺麗な弧を描く。 「………うん、本当だよ」

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