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第461話
「………まだ、寒い?」
屋久の、穏やかな声。
優しさを滲ませながらも、何処か無機質に響いて聞こえてしまう。
僕をベッドに寝かせた後、その傍らに腰を下ろし、宥めるように僕の前髪を撫でる。
その手が触れる度、全身が震えてしまうのを止められそうにない。
「体力が戻っていないせいだね。……明日からはもう少し、頑張って食べてみようか」
「……」
答えずにいれば、髪を撫でる手が頬を包み、親指の腹で僕の下唇を少しだけ捲る。
「この身体は、姫一人のものじゃないんだ。これ以上痩せたら、この俺が許さないよ」
ビー玉のような蒼眼。優しく説教するように吐いたその唇の端が、クッと持ち上がる。
ドクンッ──
たったそれだけ。
なのに、バクバクと心臓が暴れて回って止まらない。
全身から力が抜け、呼吸が浅くなり──ぶるぶると震えるのに、熱くて……
怖い……
「……!」
何で……怖いんだろう。
いつからこんな感覚に、襲われるようになった……?
屋久は僕に心を開き、今まであった事を話してくれたのに……
『大切なのは、俺がソイツを信頼できるかどうか』『この先決して、俺を裏切ったりしないでくれよ』──あの時の表情や声が、脳裏を過る。
「……」
あれは、僕を受け入れたんじゃない。
信頼できる人物かどうか、反応を見て様子を窺っていただけ──
だって僕は、それ相応の事を屋久にしていないのだから。
でも、それじゃあ何で……屋久は僕を……
「………基成 」
「ん?」
恐る恐る声を掛ければ、屋久の片眉がピクンと動く。
「基成は……僕を、どう思ってるの……?」
「………どうって?」
「僕を抱きたいって、基泰が言ったから……仕方なく、保護してる……だけなの?」
僕を見つめる無機質な瞳が、静かに揺れた後……僅かに見開いて僕の全てを呑み込む。
「──そうだよ」
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