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第465話

ぽた……ぽた…… 揺れる視界に映る、赤い点々。 空気に晒された傷口が、やけに熱い。 「……」 蕾は、こんなもんじゃない。 僕を守る為に、自身の腕を噛み……容赦なく食い千切ろうとしていた。鋭い犬歯が食い込んで、血が滲む程に。 こんなもんじゃない。きっと、蕾の方が痛い。 ……胸が、痛い…… 「……」 一度落とした腕をゆっくりと持ち上げ、ドクドクと脈打つ傷口を見る。 止まる様子のない、赤い血。 ……まだ…… 僕の中に、これだけの血が残っているなんて。 こんな、骨と皮しかないような……細い腕なのに。 ……どうして僕は、まだ生きてるんだろう…… ──トサ、 ジリジリと脳内が痺れた後、端から黒いシャドウが掛かり、視界を狭めていく。 ふわりと軽くなる身体。グラリと大きく視界と脳内か揺れ、それまで痺れていた四肢から感覚が消えていくと…… 床に叩きつけられる痛みを最後に、意識を失った。 ……さくら…… さくら…… 「……」 ゆさゆさと身体を揺さぶられた後、誰かに抱きかかえられ、身体が床から浮き上がる。 だらんと弛緩する四肢。歩く速度に会わせて揺れる身体。ふわふわして、心地良い。 ……誰……? 目を開けられず、声を掛けようとするものの、中々口も開かなくて。 トス、ン…… 沈んだ身体を柔らかいものに跳ね返され、ここがベッドだと気付かされる。 額にそっと当てられた、指先。肌の上を滑らせるようにして、瞼に掛かる前髪をゆっくりと退かす。 「……」 そのまま、離れる事無く指を一本から四本に増やし、そっと横髪に絡めて丁寧に梳く。 一度離れた後、直ぐに僕の片頬を手のひら全体で包み込む。 ……少しだけ、冷たい……? だけど、その温もりは……何処か懐かしくて…… 「………ア、ゲ……ハ……」 やっとの事で唇が小さく動き、そこから弱々しくも声が漏れる。 それが僕の外耳を通り、脳内を震わせる。 気持ちいい…… ……もっと撫でて、アゲハ…… 微睡みの中で、そう願ったのに。 その思いとは裏腹に、スッと手が離れていく。 「……」 再び僕を取り巻く、真っ暗な闇。 無の世界。 ひとりぼっちの僕。 哀しみの涙が溢れ、目尻から重力に従って伝い零れる。

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