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第467話

一番上から、ひとつひとつ丁寧にボタンを外していく。 その全てを外すと、前を開けて隠れていた肌を空気に晒す。 「……」 ぴちゃぴちゃ、…… 近くで聞こえる水音。少しだけ、身体が緊張で強張る。 「大丈夫。そっとするから」 屋久の手が肩に触れ、もう片方の手が胸元へと近付く。 「……っ、ん!」 「冷たかった?」 「………、ううん……、」 少し意地悪気な顔をした屋久が、僕の顔を覗き込む。 「……我慢しないで、何でも俺に言うんだよ」 胸元に当てられた、濡れタオル。 生温かなそれが、肌の上を優しく滑る。 「……ん、」 白い柔肌が、擦られる度にほんのりと淡いピンク色に染まっていく。 その胸元──ピンと起つピンク色の小さな突起がぷっくりと膨らみ、首元から噎せ返るような甘い匂いが立ち篭める。 「もしかして、カンジてる?」 「……!」 再び揶揄われ、羞恥で頬が熱くなる。 こんな……骨と皮だけの状態になってまで、男を誘おうとするなんて。 本当に、僕の身体はどうなっているんだろう。 凄く変で、滑稽で……何だか可笑しい。 「……何、笑ってるの?」 「………え」 僕、いま笑ってた……? 屋久の問いに、どう答えていいか解らず、口角を少しだけ持ち上げながら俯く。 「……飲める?」 僕の身体を一通り濡れタオルで拭いた後、洗面器を浴室に片した屋久がティーカップを持って戻ってくる。 真っ白な液体。立ち篭める、ほんのり甘い匂い。 「ホットミルクだよ。よく眠れるように」 「……」 ………何で。 何で屋久は、こんなに優しくしてくれるんだろう。 意図が、全然解らない。 僕の中に潜む、若葉のような『僕』に興味があるだけで……僕自身には、何の興味もない筈なのに。 「……」 そう思いながらも、……嬉しい。 何をされるか、解らない怖さは残っているけど。 『もしお前が、若葉の身代わりにならねェって見限られたら……どうなるか解るか?』──ふと蘇る、太一の言葉。 もし身代わりにならなかったら──金を稼ぐ為の道具として調教され、スレイブとして男達に売られるか……薬漬けにされて、骨の髄までしゃぶりつくされる。 じゃあ、もし僕が屋久の望み通り、若葉の身代わりになれたとしたら──? 「……」 何方にせよ、このまま一生屋久に囚われ続けるのだとしたら…… 僕は、若葉のようにはなりたくない。 心を穢してまで、生きていきたくない。 例えそれが身を守る為であっても、平気で人を傷つけて、それを当然だと思うような人間になんて。 僕は、僕のままでいたい。 「……ミルクは、苦手?」 未だ口をつけない僕に、屋久が声を掛ける。見上げれば、寸分変わらず穏やかな笑顔を浮かべていた。 それに酷くほっとしながら小さく横に振った後、ふう…とミルクの表面に吹き掛け、一口飲んだ。

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