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第469話
……はぁ、はぁ
胸の奥を抉り取られるような衝撃。
あんなの、僕じゃない。
意識の端と端を何とか繋ぎ合わせ、僕を保とうと大きく深呼吸をするけれど。
まだ頭の中が痺れているし、眩暈はするし……耳元で、何かがしきりに呟いていて……
『………、死ね』
パシン──
本能的に、いる筈のない何かを勢いよく片手で払い上げる。
と同時に、手の甲に当たる──何か。
「………それだけの元気があるなら、もう大丈夫だね」
「……!」
掴み取られた手首。
ハッと我に返れば、それまで聞こえていた声が跡形も無く消えていて。
腕の付け根から、ゆっくりと視線を辿っていけば……そこにはあったのは、ニヒルな笑顔を浮かべる、屋久の姿。
口元を拭われた後、屋久に抱えられながら別のパジャマに着替え、軽々とベッドに戻される。
嘔吐物はそのまま。何処から持ってきたのだろう。カチャン、と金属製の四角い箱を開け、取り出したのは──胴の細い注射器。
「これから暫く、注射 を打たせて貰う」
鋭く光る針先。
筒のツバ部に指を掛け、その針先を上に向けて構えると、一度だけ胴部を指で弾く。押子に添えた親指を少し押し込めば、針先から数滴液が滴り落ちる。
「……」
「別に、怖がる事はないよ。……Mが、点滴代わりに置いていったものだからね」
僕を見下げる屋久。その目尻が吊り上がり、逆光で陰になっているにも関わらず、ビー玉のような蒼眼が不気味に光る。
「睡眠導入剤も入っているから、……良ぉく眠れるよ」
「……」
………何を、そんなに怒らせたんだろう。
さっきまで、僕に優しくしてくれていたのに……
震える僕の腕を、無情にも掴んで乱暴に引っ張る。露わになったその内側には、痛々しい数々の点滴痕。
片手で上から手首をベッドに沈めた後、静かに一度注射器を置き、濡れた脱脂綿で腕の内側を拭く。
ツンと鼻につく、消毒液の臭い。
「………ごめ、んなさ……」
震えながらも屋久に赦しを請えば、そんな事はお構いなしに、屋久が注射器を持つ。
「謝るのは、どうして?」
腕の内側に注射針を当て、睨みつけるように僕を見た後、口の片端をクッと持ち上げた。
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