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第472話
スボッ───
……ごぼごぼごぼ……
何かが僕の足首を掴み、強い力て引っ張り下げられる。
脳を貫く鋭い痛み。
水中では息をするのが苦しくて。手足をバタつかせるものの、その甲斐も無く沈んでいく。
微かに聞こえる、僕の声。
閉じてしまった瞼をゆっくりと開けてみれば、僕の直ぐ真下には、蠢く人、人、人──
その間を縫うようにして、細い片腕が下から伸び、助けを求める。
「……ゃ、あぁ″……!」
群がる裸の男達。
『僕』を捕まえて、着ている服を毟り取り、喰らうように肌に顔を埋めて……
「ほら、早く助けてあげなよ」
「──!」
突然、背後から聞こえる囁き声。
耳裏に掛かる、熱い吐息。
驚いて振り返れば……それまで水面上にいた『僕』が。
「その為に、ここに来たんでしょ?……ねぇ、早くしないとカッターで切り刻まれちゃうよ? ククク……」
「……っ、」
その目が、酷く冷たく僕を見る。
……嫌だ……思い出したくない。
あれは、太一にレイプされた時に見た、幻影と同じ……
助けようと手を伸ばした僕に、酷く悪い顔をした『僕』。
「ほら、早く」
「……」
「早く!」
トン……
背中を強く押され、必然的に身体が沈む。
「……!?」
気流の変化を感じ取ったのか。『僕』を襲うハイジのチームらが、僕の方へと振り返った。
途端に硬直する身体。
ターゲットを捉えた蠢く身体が、無言のままゆっくりと此方に近付いてくる。
……怖い……
身の危険を感じながらも、小刻みに震えるだけで……
「……」
できない……僕には、できない……
「………酷いなぁ。今度は助けてくれないの?」
声に反応し、突然動かなくなる男達。むくりと起き上がり、只の肉の塊と化したそれを乱雑に押し退け、『僕』がゆっくりと向かってくる。
「本当に意気地がないんだね、さくらは」
「……」
「そんなんだから、竜一に愛想を尽かされたり、ハイジの人生を狂わせたり、寛司を見殺しにできたりするんだよ」
「──全部、お前のせいって事だよ」
音も無く背後から、もう一人の『僕』が近付く。
「……そうやって、いつまでも心を閉ざして逃げる気なのかな?」
「クク……僕もさぁ、もういい加減うんざりしてるんだよね。お前のトラウマにずっと付き合わされるのはさぁ……」
背後にいる『僕』の声に被せるように話しながら、開けた服を捲り、僕に首筋や胸元を晒す。
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