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第477話

『……さくら。 世の中には、二通りの人間が存在する。──支配する者と支配される者だ。 これは生まれ持ったもんで、どう努力してもどう足掻いても、その本質は変わらねぇ』 ……え……寛司……? 『若葉は、支配する側の人間だ。 あの強烈な色気と男を虜にする技術(テクニック)を武器にして、腕っぷしでは敵わねぇ相手でも、手のひらで転がす才能がある。 その点お前は……逆だ。 しかもただ支配されるだけじゃねぇ。質の悪い事に、支配する奴の奥に秘めた本能を擽り、それを駆り立てて引き出しちまうもんがあるんだよ』 寛司と出会ったばかりの頃……倫の店で言われた台詞が頭の中を流れる。 ……酷く、懐かしい…… 『お前は変わるな。 高次が犯した罪を、お前まで責任感じる事はねぇ。 汚れんな。この世界(アンダーグラウンド)に染まるなよ、さくら。 ……そのままの、純粋なお前でいてくれ』 ふわっ…… 僕を引き寄せて、キュッと抱き締める寛司の温もりが、僕の中に広がっていく。 その瞬間心に灯る、蒼い炎。 『犯罪者(サイコパス)にだけはなるな。……若葉になんか、絶対なるんじゃねぇぞ』 『あんまり自分を卑下すんな』 『……もっと、自信持て』 『さくら、愛してる』 「──!」 何故だか解らない。 寛司がくれた、言葉のひとつひとつが、温もりが……僕の内側から溢れ、一気に弾ける。 じめじめとした暗いトンネルの出口が見え、煌々とした太陽の光が射し込んできたかのように。 長い夜が明け、朝日の眩しさで悪夢から目が覚めたかのように。 灰色だった世界が、パッとカラフルな世界で溢れたかのように。 ……温かい。 心が……温かい…… こんな僕に……寛司は大切な事を教えてくれていた。 優しく、僕を包み込んで……守ってくれた。 何で僕は、忘れてしまっていたんだろう…… 僕を、あんなにも愛してくれた……寛司の思いを。

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