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第480話

ふと、手元に視線を落とせば、手首に巻かれた包帯が視界に映る。 ……ナイフ……凶器…… あんなもので、男達を蹴散らせるなんて到底思えない。 けど……無いよりは、マシ。 殆ど気力だけで立ち上がり、眩暈のする身体に鞭を打つ。 「……」 この部屋の何処かに、監視カメラがあるのかもしれない。 万が一見つかって、屋久が戻ってきたら困る。……慎重に、しなくちゃ…… ハルオの時とは違う。外から助けを呼べる人なんていない。勿論、助けにくる人も…… ……全部、自分でするんだ…… 全部、自分で…… カウンターへ行く途中、ふと、浴室が目に入る。 ……怖い…… 指先が、震える。 「……」 脱衣所の鏡の前で、小さな凶器を包帯の中に仕込む。 以前、蕾の髪を乾かそうとドライヤーを探していた時、偶然、引き出しの奥から女性用のポーチを見つけた。 以前ここにいた人のだろう。中には、トラベル用の基礎化粧品とファンデーション。睫毛をカールさせるビューラー。 そして、折りたたみ式の小さなカミソリ。 もしかしたら、余り役に立たないかもしれない。 でも、手首の内側に隠し持ってると思うだけで、不思議と勇気が湧いてくる。 外に出て、真っ直ぐカウンター裏へと向かう。 カウンター下の引き出しを開ければ、料理用バサミ、缶切り、アイスピック……凶器になりそうなものが目に付く。だけど、そのどれもがカミソリのようにコンパクトではない。 背面側にある、小さな食器棚。その下にある引き出しを開けてみれば、スプーンやフォークに混じり、先が二又になった、ステンレス製のヒメフォークが。 「……」 少し悩んだ末、何も取らずに引き出しを静かに閉める。 コップを取り出し、半分程水を汲んでゴクゴクと飲み干す。 緊張で喉が渇いたのもある。けど……すっかり監視カメラの存在を忘れていた。 カウンターから離れ、ベッド脇にある背の低いタンスから、タンクトップを取り出す。螺鈿細工が施された、煌びやかなアゲハ蝶。これは、絶対に置いてはいけない。 シルクのパジャマを脱ぎ捨て、そのタンクトップといつものショートパンツを身につける。 タンスの上に置かれた、ピアスケース。肌寒さにぶるっと身体が震える。基泰が貸してくれた長袖のシャツを取り出して羽織ると、ピアスケースを拾いポケットに仕舞う。 再び、カウンターの奥へ。仕込んでいたカミソリをショートパンツのポケットに仕舞い直し、ヒメフォークを二本、包帯の下に隠す。 「……」 気持ちを整えるように息を吐ききると、振り返り、ナイフブロックからペティナイフを静かに引き抜いた。

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