483 / 558
第480話
ふと、手元に視線を落とせば、手首に巻かれた包帯が視界に映る。
……ナイフ……凶器……
あんなもので、男達を蹴散らせるなんて到底思えない。
けど……無いよりは、マシ。
殆ど気力だけで立ち上がり、眩暈のする身体に鞭を打つ。
「……」
この部屋の何処かに、監視カメラがあるのかもしれない。
万が一見つかって、屋久が戻ってきたら困る。……慎重に、しなくちゃ……
ハルオの時とは違う。外から助けを呼べる人なんていない。勿論、助けにくる人も……
……全部、自分でするんだ……
全部、自分で……
カウンターへ行く途中、ふと、浴室が目に入る。
……怖い……
指先が、震える。
「……」
脱衣所の鏡の前で、小さな凶器を包帯の中に仕込む。
以前、蕾の髪を乾かそうとドライヤーを探していた時、偶然、引き出しの奥から女性用のポーチを見つけた。
以前ここにいた人のだろう。中には、トラベル用の基礎化粧品とファンデーション。睫毛をカールさせるビューラー。
そして、折りたたみ式の小さなカミソリ。
もしかしたら、余り役に立たないかもしれない。
でも、手首の内側に隠し持ってると思うだけで、不思議と勇気が湧いてくる。
外に出て、真っ直ぐカウンター裏へと向かう。
カウンター下の引き出しを開ければ、料理用バサミ、缶切り、アイスピック……凶器になりそうなものが目に付く。だけど、そのどれもがカミソリのようにコンパクトではない。
背面側にある、小さな食器棚。その下にある引き出しを開けてみれば、スプーンやフォークに混じり、先が二又になった、ステンレス製のヒメフォークが。
「……」
少し悩んだ末、何も取らずに引き出しを静かに閉める。
コップを取り出し、半分程水を汲んでゴクゴクと飲み干す。
緊張で喉が渇いたのもある。けど……すっかり監視カメラの存在を忘れていた。
カウンターから離れ、ベッド脇にある背の低いタンスから、タンクトップを取り出す。螺鈿細工が施された、煌びやかなアゲハ蝶。これは、絶対に置いてはいけない。
シルクのパジャマを脱ぎ捨て、そのタンクトップといつものショートパンツを身につける。
タンスの上に置かれた、ピアスケース。肌寒さにぶるっと身体が震える。基泰が貸してくれた長袖のシャツを取り出して羽織ると、ピアスケースを拾いポケットに仕舞う。
再び、カウンターの奥へ。仕込んでいたカミソリをショートパンツのポケットに仕舞い直し、ヒメフォークを二本、包帯の下に隠す。
「……」
気持ちを整えるように息を吐ききると、振り返り、ナイフブロックからペティナイフを静かに引き抜いた。
ともだちにシェアしよう!