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第484話
眉間に皺を寄せた男が、僕の両手を一度解き、包帯を乱雑にひん剥く。
カラン……
こぼれ落ちた、ヒメフォーク。
その小さな音が、残酷なまでに脳裏に響く。
「………いい度胸じゃねぇか。二本も隠し持ってたなんてな」
──ドスッ
徐にそのフォークを拾い上げると、僕の顔近くにそれを突き立てる。
「ああ──成る程。
その為に、ここを切ったのか。こんなチンケな武器を隠す為によぉ……」
「……」
震える僕の左腕を取り上げ、ガーゼを取り払った剥き出しの傷を、親指の腹で撫で回すように擦る。
グイと引き寄せ、埋められる男の鼻先。
「……!」
スゥ…と鼻で吸われた後、徐にそこを舐められる。
這われる舌が……熱い。
「……ゃ、」
思わず引っ込めようとすれば、力尽くで阻止され──軽々とひとつに纏められた両手首を、頭上に叩きつけられる。
「殴られたくなきゃあ、……大人しくしてろ」
………ハァ、ハァ、
険しくつり上がる、男の眼。
そこに蘇る、消えかけていた劣情。
僕の顔、首輪から覗く首筋、鎖骨、胸元……ゆっくりと黒目が動き、僕を値踏みする。
「……」
嫌だ……
身体が、震える。
勇気を出した行動が、最悪な事態を招いている。
それまで僅かにでもあった自信や希望が、この男の出現で壊されていく──
こんな時、若葉だったら……
ふと、そんな考えに取り憑かれる。
……駄目だ、そんな事考えちゃ……
弱気になったら、きっともう一人の『僕』に取り込まれてしまう。
僕が、僕でなくなっちゃう……
「……」
……大丈夫。
きっとこの人は、男に興味のない人生を送ってきた人だ。
もし、万が一、最悪な事態になったとしても……最後まではしない。
ある程度で満足するか、途中で興味を失せれば……きっと解放する。
大丈夫……
「──!」
厳つい男の手が、乱暴に服を捲り上げる。
露わになる、肋骨の浮き出た身体。
痩せ細った胸元──色白の柔肌に映える、薄桃色の小さなつぼみ。
「随分、エロい身体してんな。ガリガリのクセに……」
「………っ、!」
裾を捲り上げた方の手が滑り下り、剥き出しのそれを、指先で弾く。
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