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第487話 本当の自由

××× 「……」 どういう、風の吹き回しだろう…… 移りゆく夜の街を眺めながら、ぼんやりとそんな事を考える。 様々なネオンの光が車内に射し込み、僕の顔や身体を多彩に染める。 「……ちょっと、付き合え」 男を殴り倒し、弛緩した僕を支えた基泰が真剣な顔でそう言う。 このまま部屋に戻されるのは嫌だったし、何だか酷く疲れていて…… 「うん……」 腫れた頬が、熱い。 別に、基泰を信用している訳じゃない。 だけど……屋久といるよりはマシ。 基泰は、ハイジのように真っ直ぐで、僕を騙そうなんて事、しなそうだから…… 繁華街を抜けた車は、人気のない裏路地──コインパーキングと雑居ビルばかりが建ち並ぶ、外灯の殆どない暗い細道を走る。 不安になって基泰を見ると、その横顔が険しいものに変わっていた。 外壁が雨染みで黒く薄汚れた、不気味な雑居ビル。その地下にある駐車場に駐めると、基泰が車から降りる。 薄暗い照明。端の電気が切れかかり、バチバチと音を立てて点いたり消えたりを繰り返す。 何処からするのか。遠くから、水の滴る音が微かに聞こえる。……雨など降っていないというのに。 「タク、後は頼んだぞ」 「……」 反対側に回ってドアを開け僕を降ろした基泰が、運転手にそう命令する。 ヒンヤリとした空気。 古くて籠もった、独特の臭い。 「行くぞ、さくら」 繋いだ手を強く引っ張られ、ビルの入り口へと向かう基泰についていく。 4人も乗ったら窮屈になりそうな程、狭いエレベーター。着いた階を降り、狭い廊下を少し行った先に、社名の入ったプレートを掲げたドアが見えた。 外付けされた回線電話。受話器を外した基泰が対応すると、暫くしてドアが開く。 「……後から、連れが来る」 「承知しました」 出迎えたのは、カッチリとした髪型に細渕の眼鏡を掛けた、全身白スーツの男性。その雰囲気は、(りょう)の右腕であるシンに良く似ていた。 「どうぞ、此方へ」 「……」 ドアを大きく開け、軽く頭を下げた男が中へと招き入れる。 緊張する僕に気付いたのか。隣に立つ基泰の手が、安心させるかのように僕の背中に添えられ、中へと導く。

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