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第489話

「……これが、お前のケジメか?」 無機質で冷たく、何の感情も無い声が静かに響く。 「おい。……犬を呼べ」 愁を見下げていた深沢の眼が、ドア付近の壁際に立つ、案内人の男へと向けられる。 「はい」 命を受けた男は、取り出した携帯で何処かに電話を掛ける。 その間にも、愁は怯え震えながら赦しを請う言葉を懸命に吐き続けていた。 「……」 犬──犬って、一体…… コンコン。 ノックの後、ガチャリとドアが開く。 「……入れ」 「……」 トン、トン、トン…… 明らかに、普通とは違う足音。 怯え伏せる愁の前を通り過ぎ、姿を現したのは── 「………!」 僕と同じ首輪をし、全裸で四つん這いの格好をしている──五十嵐。 相当調教されたんだろう。身体中傷だらけで、酷く痛々しい。 その目は何処か虚ろ気で、口角は下がり、すっかり頬は痩せこけ、全く表情がない。 「菊地を殺った奴なら、既にスネイク(うち)で飼っているぜ」 「……」 「残念だったな」 口の片端を少しだけ持ち上げ、深沢が愉快そうに答える。 確かに……五十嵐は、寛司を殺した。 でも、それなら──真木から白い粉を渡された僕だって……… 少しだけ顔を上げた五十嵐と、視線がぶつかる。と、不安に揺れる僕を捉えながら僅かに頭を横に振った後、端が切れて痛そうな口をゆっくりと動かす。 『い・う・な』──そう伝えた唇が、両端を僅かに持ち上げて見せる。 「………っ、!」 こんな時まで、僕に笑いかけるなんて…… ツキン、と胸の奥が痛む。 「……なぁ、基泰」 崩した体勢を戻した深沢が、基泰の方へと視線を向ける。 「俺らスネイクは、どんな事があろうとヤクにだけは絶対手は出さねぇんだ。……例えどんな事があろうとな」 「……」 「何故か解るか?」 真っ直ぐ基泰を捉えた眼が、瞬きをする直前の一瞬だけ、僕へと向けられる。 「コンクリ事件、知ってんだろ?」 「……」 「女を捕まえて監禁していた時、見張り役として集めた仲間全員が、俺の預かり知らぬ所で吸っていたんだ。 高揚感はやがて過剰な狂気へと変わり、自身に還る。……俺も菊地も、そのせいで大切なものを失った」 「……」 「失ってからじゃ、遅ぇんだよ。……基泰」

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