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第499話
×××
数時間前までここに、希望を胸に抱き脱出を試みようとした僕がいた。……この後どうなるかなんて、知る由もなく。
「……いいねぇ」
カチャカチャとハンディカメラを弄り、辺りを試し撮りしながら屋久が呟く。
そのレンズが、正座を崩した格好で大人しくベッドに座る僕へと向けられる。
「……」
羽織っていた白シャツの肩部分を外され、後ろに回された両手首に弛む布地。そこを、余った裾を巻き付けしっかりと固定される。胸元に舞う、螺鈿の輝きを放つアゲハ蝶。そのタンクトップの裾から生える、膝を折り畳んだ二本の生足。
「でも、ジーンズは邪魔だな。……下は全部、脱いで貰おうか」
屋久がそう言い放てば、僕にこんな格好をさせた筋肉隆々の男が、僕の正面へと回る。
トサッ ……ズル、
まるでマネキン人形の服でも引っ剥がすかの如く、少し乱雑に僕の身体を仰向けに倒し、いとも簡単に下着毎ショートパンツを脱がす。
ベッドの外へ放り投げられるソレ。カツン、と何かが硬い床に当たる小さな音。
男がベッドから下りるのを見計らい、身体を捩りながら無い腹筋を使って何とか身体を起こす。
「……」
足を再び折り畳み、正座を崩した格好でぴったりと膝をくっつけるものの……裾が短いせいで、絶対領域全てを隠せない。
恐怖と羞恥に満ちた顔を伏せ、そこから縋るような視線を基泰に向ける。
「……」
何かに気付いたのだろう。
ハンディカメラをベッド端に置いた屋久が、床に落ちたショートパンツに手を伸ばす。
「……いけない子だね、姫。こんなものを持ち歩いていたなんてね」
拾い上げたのは、折り畳みのカミソリ。護身用にとショートパンツのポケットに隠していたそれが、床に落とされた拍子に飛び出してしまったんだろう。
右から左、左から右へ。まるでお手玉のように、軽く宙に投げて弄ぶ。
「罰として、……これも使おうかな」
パチンと刃を出すと、屋久の斜め後ろに立つ基泰にその柄を向ける。
「………おい、何をさせる気だ」
「何って、……解ってる癖に」
腕組みを解き、怪訝そうな目を向ける基泰に、流し目をしながら淡々と答える屋久。
「………まさか、それで……」
「バーカ。切るのは服だけに決まってんだろ」
「にしても、だ。……んな物騒なもんは、今まで使った事ねぇだろ……」
「──だからァ!!」
低く荒げる声。
何時までも受け取らず、ごねる基泰に苛ついたんだろう。
スッと、音も無くその刃が空を切り、基泰の顎下にピタッと止まる。
「お仕置きだって、言ってんだろ……」
「……」
屋久の眼──金属の刃よりも鋭く冷たい眼が、基泰を下から睨みつける。
「馬鹿か……お前は」
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