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第501話
「………」
カチ、カチ、カチ、
無機質に等間隔で鳴り響く、小さな音。薄闇の中で不気味に光る、カッターの刃先。
それがゆっくりと下ろされ、僕の柔肌に当てられる。
震える度に食い込む鋭利な刃。残酷な程に冷たくて……僕の心まで凍り付かせる。
ジッ……浅く引かれる縦線。その傷痕を追い掛けるように、赤い血が滲んでいく。
刃先についた赤いそれを眺めた後……赤く滲んだ傷痕を、男が美味そうに舐め上げる。
不気味に顔を歪めながら。
「──ゃだっ、!」
嫌だ……ヤだ……
震え痺れる手足に力を籠め、バタつかせながら後方へ逃げようとする。
だけど……動けない。
『……くな、』
これが現実でないのは、解ってる。
過去のトラウマが見せる、幻影だって。
解ってるのに。あの時の恐怖を、まだ身体が覚えてる──
「暴れんなっ……!」
暴れる僕をトンッ、と片手で仰向けに押し倒し、カミソリをベッド下に投げ捨てた基泰が、僕の上に跨がる。
ぴり……ぴりり……
ビィィーッ
開けた穴に指を突っ込み、基泰が力尽くで布を引き裂く。
「──!!」
絶望にも似た音。
真っ二つに引き裂かれた、アゲハ蝶。
もう、何も考えられない。
何も──感じない。
僕の身体が切断し、心ごとバラバラに千切られたよう。
「……クク、いいねぇ。
絶望に打ちのめされる、その表情 ……」
ジー……
無機質なカメラの液晶に映る僕。
瞳孔が開いたまま、壊れた人形のように動かない。
見慣れた、天井。
酷く揺れて、チカチカとストロボのような火花が散って見える。
その放心しきった僕の顔を、基泰が上から覗き込む。
「……」
……ハァ、ハァ……
困惑と恍惚の混じった表情を浮かべる基泰が、絶望の波に飲み込まれ放心する僕の首筋に顔を埋める。
「さくら……」
両膝をこじ開けられ、その隙間に身体を捩じ込まれ、立てた膝から太腿に向かって、厭らしく撫でられる。
「……あぁクソ、堪んねぇ」
首元から立ち篭める、甘っとろい匂い。無意識に放出されたそれに当てられたんだろう。基泰のモノがむくっと勃ち上がり、硬く大きく成長したソレが主張し始める。
「……さくら」
「……」
「このまま、良く聞け。……今破いた服なら、知り合いの修理屋に、綺麗に直させてやる」
「………!」
卑猥な水音を立て、耳殻を食みながらそう耳打ちされる。
『直させてやる』──その言葉が、切り刻まれた僕の心を優しく癒し、瘡蓋のように傷口を塞いでいく。
「だから……気ぃ落とすんじゃねーぞ」
……基泰……
この服の事、気に掛けてくれて……
「……」
小さく揺れる瞳。
無感情だったそれに光が戻り、不思議と恐怖が薄れていく。
柔く瞬きをした後、ゆっくりと視線を動かし……滲んだ視界映る基泰に焦点を合わせる。
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