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第503話
両手を後ろに回された状態で、馬乗りになった男に太い結束バンドで拘束される基泰。
間近で冷たく見下げる屋久を、それでも気圧される事無く睨み続ける。
「どうした、基泰。
……ああ、そうか。両手を拘束されたら、指、咥えられないね」
クク……
口の片端を持ち上げ、基泰をジッと見据えながら不気味に笑う。
カメラを持っていない方の手を伸ばし、折り曲げた四本の指の背で、基泰の片頬を撫でる。
まるで、飼い犬を愛でる主人のように。
「そんな顔すんな。……お仕置きだって言ってるだろ」
「……」
「──それとも、俺が抜いてやろうか?」
「ふざけんなっ、!」
基泰が怒号を飛ばす。
その反応が余程面白かったんだろう。基泰から手を引っ込めると、親指と人差し指の先をつけて輪を作り、僅かに開けた自身の唇の前に構えてみせる。
「遠慮するなよ。……なぁ、基泰」
ダイニングテーブルに置かれた、一台のノートパソコン。その液晶画面に、一人の男の影が映り込む。
「……おい、基成」
それに気付いた隼人が、パソコンの画面をベッドへと向ける。
薄暗い部屋。その中央にある二人掛けのソファにドカリと座る、ふくよかな中年男性。顔には影が掛かり、その特徴は余り良く窺えない。
『待たせたな、基成 』
画面の奥で話し出す男──会員制SMクラブのオーナーの声が、部屋に響く。
振り返った屋久がスッと立ち上がり、身体を声のある方へと向ける。
「悪ぃな。……さっき余興が終わった所だ」
『それは惜しいことをしたな』
「ハハ……お望みなら、後で映像 を送りますよ」
『それは楽しみだ』
持っていたハンディカメラを胸元辺りに掲げた屋久が、口の端をクッと持ち上げる。
「……では、これから撮影を始めようか」
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