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第506話

地面に倒れた男が二人。 急所の一撃で気絶した茶髪の男。そして、人相が解らなくなる程の衝撃を受けた顔──鼻がへし折れ頬の一部が陥没し、赤黒く血に染まった金髪の男。 「……スゲェ」 「これはマジでヤベぇって」 「で、どうすんだよ、ハイジ」 男達を取り囲み、頭を付き合わせるようにして、チームメイトが上から覗き込む。 その中の一人が顔を上げ、興味と不安の入り混じった声でハイジに話し掛ける。 「……心配ねーよ」 その問い掛けに顔色ひとつ変えず、ハイジがポケットから携帯を取り出す。 「悪ぃがお前ら、さくらを連れて先帰っててくんねーか?」 「……」 ハイジの指示に、仲間達が訝しげにお互い顔を見合わせる。 「……ハイジ、何する気だよ」 その問いには答えず、僕に顔を向けるハイジ。 ……その瞳は鋭く、狂気的でまだ邪鬼を孕んでいた。 「……おい、モル」 器用に携帯を片手で操作し耳に当てると、今度はモルにその眼を向ける。 「お前は残れ」 「……了解ッス!」 それまで円陣の中で黙っていたモルが、その場にそぐわない……元気な笑顔で即答し、敬礼する。 モル以外の全員はハイジの指示に従い、倒れた男からバラバラと離れ、停めていたバイクの元へと向かう。 「……姫」 その中の一人。動けずにいる僕に顔を向け、片手を振って声を掛ける。 「良かったら、僕の後ろに乗りなよ」 その姿は……一際背の高い、ウエーブ掛かった髪の男── 「──!」 ……そ、んな…… 笑顔を向ける、吉岡。 陶酔する程に慕っていた屋久が、目の前で酷い目に遭い……きっと、腸が煮えくりかえっていた筈なのに。 その原因となった僕を、後ろに乗せていたなんて…… 「……」 もしかしたら、あのまま僕を振り落として殺したい衝動に、何度も駆られていたかもしれない。 『原因なんて、至極単純なんだよ』──目的の場所へと移動していたあの日。五十嵐の質問にそう答えた吉岡の心理が……今なら理解できる。 ずっと、僕の事を憎んで。恨んで、恨んで、恨み続けて……死ぬより苦しい目に遭わせたいと、腹の底から願っていたんだろう。

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