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第509話

「……え」 瞳が、揺れる。 それまで、明るく開けていた目の前が、暗く固く閉じていく。 「さくら自身が、強い信念を持ち続けていれば……『若葉』は決して悪さをしない」 「……」 そんな事、言われても…… これまでの事を思い返せば、確かに若葉に助けられた部分はある。 でも…… 「ここにはね、さくら。僕の他にも何人か……いるんだよ。皆、さくらの事が好きで、守りたいと思ってる。 その中に、突然変異とでもいうのかな。若葉が生まれた」 「……」 「……だけどね。 光ある所に影があるように、誰にだって狂気的な部分は持ち合わせているんだよ。ただそれを、理性で抑えられるかどうか。……その違いだけ」 動揺する僕に、静が心地良い声で畳み掛けながら、一歩近付く。 その内容はまるで、希望的観測。 有り得ない。頭の中で、思考がふわふわとしながらジリジリと痺れ、現実的じゃない。夢でも見ているよう。 「……」 小さく頭を横に振りながら一歩後退れば、少し哀しい顔をした静が、それでもまた一歩と近付きながら口を開く。 「さくらの身体に、殺人犯の血が流れてるからなんて、思わないで。例えその素質があったとしても、善人であり続ける人は沢山いる。……結局は、個人の問題なんだよ」 「……」 「前に、さくらも言ってたじゃない。──『僕は、僕だ』って」 「………!」 ぴちょん…… 空間に一際響く、水の滴る音。 ふと、静が天を仰ぐ。 釣られて見上げれば、暗闇の中に蒼白い光を放つ波紋が生まれ、大きく広がっていく。 その輪の中に、揺れながら浮かび上がる映像。 裸体を晒した屋久が膝立ちをし、直ぐ真上から僕を見下ろす。その眼は悪意に満ち、顔を歪ませながら何やら口を動かしていた。 「……!」 咥内に感じる違和感。 喉奥を、何かが擦れるような感触。 鼻から抜ける、嗅いだ事のある臭い。 髪を乱雑に掴まれたような痛みがし、何だか……息が苦しい。 「ここから見ていて、解った事がある」 「……」 見上げたまま、静が僕に話し掛ける。 「……それは、基成が大した事の無い人間なんだって事だよ」

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