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第511話

『……確実に殺されるわね』 耳の奥から聞こえる……僕の声。 艶めかしいながら、随分と勝ち気で刺々しい。 「……」 ……知らない。 こんな話、聞いた事ない。 こんな台詞も……言ってない…… 動揺しながらも、記憶を辿ろうとしてふと気付く。 もしかして、これは──『若葉』の記憶……? ふっと、屋久が笑みを漏らす。 『ああ。……だからカッコウの雛は、親の目を盗んで全てを排除するんだ。比較されて、似せ者だと気付かれないように』 『……ふうん。 で? 今になって基泰を殺しておけば良かった、……って話をしたい訳じゃないでしょ?』 何処か飄々とした声で、『若葉』が揶揄しながらそう言い放つ。 きっと、何もかも見透かすような眼をしているんだろう。一瞬で屋久の眼が据わる。 『雛同士の潰し合いになれば、俺はフェアじゃない。子の見分けが付かない程、親鳥(親父)は馬鹿じゃないからな。 だから、敢えて比較させたんだ。何方が優秀か。親父の跡を継ぐに相応しいか。 そうやって俺は、基泰を生かしながら飼い殺したんだよ』 『……』 何処か切迫詰まったような、気迫のある双眸。目尻を吊り上げ、眉間に皺を寄せたまま、組んだ手をグッと握る。 『でもな。当時、幹部にすらなっていなかった美沢が、次期組長の座を横から掻っ攫っていったんだ。 他の有力候補者を蹴落とし、俺達息子を捻り潰す為に……若葉を屋敷に送り込んで、親父を虜にしてな』 『……』 『俺が長年積み上げてきたものを、いとも簡単に踏み(にじ)りやがった。 ………何もかもを失った俺は……抹殺されたんだよ。惨めな姿で』 『……』 重苦しく変わる空気。 一瞬しんと静まった後、若葉が突然失笑する。何も感じなかったのか。場に似つかわしくない軽やかな声で。可笑しそうにクスクスと。 『……へぇ。そんなに気に入られたかったんだ。アンタを拷問した相手に』 『──笑うんじゃねぇ!』 苛ついた感情を剥き出し、立ち上がった屋久が声を荒げる。 見下げる屋久の眼。焦りの色を見せながらも息を整え冷静さを保とうとする。 その必死さが面白かったのだろう。一度は止めたものの、口元に軽く握った手の指先を当てながら、再びクスクスと笑い出す。 『あの時の恨みは、一生忘れねぇよ……』

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