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第512話

ボソリと吐き捨て、視線を外した屋久がゆっくりと深呼吸をひとつ。冷静さを取り戻し、いつもの表情に戻れば、見下げる様に再び此方へ視線を注ぐ。 『最初は、美沢に代わって俺が若葉の手綱を引こうと考えていた。が……ただ奪うだけじゃつまらねぇだろ。 バタフライナイフで仕留め損ねた自分の息子に、同じやり方で全てを奪われたとしたら──』 『………それ、僕に何の得があるの?』 屋久の声に、若葉の言い放った声が重なる。 『これ、なーんだ』 徐に屋久がポケットを弄り、取り出した小さな袋を胸元の高さに掲げる。 透明のビニール袋に入っているもの。それは、見覚えのある──白い粉。 「……!」 ……え…… 『菊地に飲ませていたのと、同じものだよ。 今これが、点滴の中に混ざっている。……ああ、外しても無駄だよ。滞在していたホテルで姫が意識を失った時から……既に点滴や飲み物の中に少量ずつ、混ぜ込んでいたからね』 『……』 『きっとこの先も、姫は何も疑わず、俺の出すもの全てに口を付けると思うよ』 ニヤリと口元を歪めた屋久が、ベッドに片手を付いて上から覗き込む。 『俺は、ただ計画BをCに変更するだけ。 でも、若葉は望み叶わぬまま、さくらと共に命を落とす。……どっちがいい? ん?』 『……おまえ、』 『条件さえのめば、俺の指示に従う毎に少しずつ解毒剤を与えてやるよ』 「……」 ゾクッと震える。 屋久は、そこまでして……僕を…… 「……大丈夫。ただのハッタリだよ」 恐怖で萎縮してしまいそうな僕の心に、静の声が優しく寄り添う。 「恐らく若葉は気付いてる。だから、敢えて騙されたふりをして、様子を窺ってる。 でも……多分、それは基成も同じ」 「……え」 静が手のひらを天に向け、掴み取るように握ると、ふっと映像が消える。 瞬間、空間に静寂が戻る。 「もし若葉の力が欲しいなら、わざわざさくらを主人格のまま、若葉を取り込もうとなんてしない。 若葉の望み通り、さくらを排除して若葉を主人格にし、支配下に置いた方がいい。 でも、そうしないのは……それだけサイコパスな若葉が怖いからだ」 「……」 「つまり基成は、美沢のように若葉を操れる人間じゃない。……小物だって事だよ」

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