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第513話
静に顔を向ければ、此方に身体を向け、僕を見ていた。
穏やかな顔付きで。笑顔まで浮かべて。
「……」
どうして、そんな事まで……
……静は、一体何者なの……?
「僕はね……さくらを助ける為に、生まれたんだ」
その表情……細めた目に、少しだけ憂いが帯びる。
「死に至るような、強い衝撃──つまり、心的外傷を和らげる為に僕達のような存在が生まれて……トラウマとなる出来事を代わりに引き受けるんだ」
「……」
「その中で僕は、他とは少し違ってて──もう君の記憶にはないトラウマと、そのトラウマに繋がりうる断片の全てを切り取って、僕の手中に収めているんだ。
本来なら、適切な時期にその記憶を君に戻し、役目を終えた僕は消えるべきなんだろうけど。……まだ、早いような気がして、実行できずにいる」
目を伏せ、広げた右手のひらをじっと見つめた静は、その手をきゅっと握る。
「それに──何より僕が、もう少しさくらを見守りたくて。
もう長い事、ここにずっと留まっているんだ」
「……」
「……でも、良かった。
僕の存在が、少しでもさくらの役に立てているのなら……こんな嬉しい事はないよ」
ぽちょん……
この空間に反響して聞こえる、水滴の音。
蒼白い波紋の光が一際輝き、此方に視線を戻した静の身体を包み込む。
「いま現実に戻すのは、さくらにとって酷かもしれない。
でも、今戻らなきゃ……さくら の身体は永遠に若葉のものになってしまう」
「……え……」
「大丈夫。……どんな事があっても、僕はさくらの味方だから」
静が、口角を持ち上げて、柔らかく微笑む。
一歩、二歩……と詰める距離。逃げない僕の直ぐ目の前に立ち、僕の右手を取ると、両手でそっと包み込む。
「辛くなったら、僕を思い出して」
瞬間──蒼白い閃光が僕をも飲み込み
辺り一面を、眩い程の純白色に変えていく。
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