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第517話

でも……この後、若葉はどうしようと考えていたんだろう。 こうなる事も、想定していたんだろうか。 それとも…… 「………てンめえぇ″ぇ…、俺の姫に……気安く、触るんじゃねぇ″えぇ″──」 隼人の肩を強く掴む手。 血塗れたそれが、隼人の服に染み込んでいく。その肩越しから現れたのは……顔面蒼白ながら、眉間に皺を寄せ気迫を見せる、屋久。 「……ハッ。うるせーよ、カスがァ」 ──ドゴッ 表情ひとつ変えず、振り返り様に隼人が屋久の顔面を拳で叩き込む。 「……ッ! ぅあ″っ、あぁ──っ、!」 後ろに仰け反り、鼻血を吹き出す屋久。それを追い掛け、隼人が僕の上から下りる。屋久の胸倉を掴み上げ、大きく振り上げた拳で、容赦なく同じ所を殴り倒す。 何度も、何度も…… 「俺はなァ、テメェに義理なんざねぇんだよ。 世話んなった凌さんの為に、仕方なく我慢してやったんだ!」 「……ぅあ″ぁぁ」 「感謝しろよ、オラァ!」 ……ドグォ、ゴッ、 その狂気は、一度キレたら手に負えないハイジに似ていて。 身体が、本能で震える。 自由になったのに……自由に身体が動かない。 ……でも……逃げるなら、今しかない…… 「……、」 何とか足を引っ込め、ベッドを蹴りながら頭部と背面を使ってベッドの上へと摺り上がる。 今、隼人が狙っているのは屋久だ。 気付かれる前に、何とか身体を動かして……逃げなくちゃ…… 「──!」 その足首を鷲掴む、大きな手。 強い力で引っ張られ、反対側のベッド端へと一気に引き摺られる。 天井が、上に向かって動く。 一瞬、何が起きたのか……解らない。予期せぬ動きに混乱し、脳内がヒヤッと冷たくなる。軽い眩暈と吐き気。その感覚は、まるで乗り物酔いのよう。 「駄目ですよ、逃げたら」 真上から覗き込む、バスローブの男。 顔の一部に出来た陰影。その中で、ギラギラと輝く双眼。隼人の時とは違う捕食者の顔付きに、身震いする。 「撮影は、既に始まっているんですから」 ギシ…… 男がベッドに片手を付き、脅えきった僕の頬を別の手で包む。

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