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第518話
「……オラァ!」
ベッドから引き摺り下ろし、隼人が屋久の顔面に拳を叩き込む。
「根暗で陰湿なんだよ、テメェ……!」
蹌踉けて怯む屋久を乱暴に倒し、その上に跨がると、間髪を入れず同じ場所を強打する。
「元々J-Angelは、凌さんが立ち上げたモンだ。
それを、権力振りかざしてテメェのモンにした挙げ句、凌さんを美沢に売りやがって。……テメェの復讐心の為だけに。──なァ!!」
ゴッ、ゴッ……
骨が、どうにかなっているような……不気味な音。
「それでも。スネイクから追い出されたテメェを、最後まで見捨てなかったんだよ。凌さんは。
んな根性、テメェにはあんのかコラ。
カマ野郎一人懐柔できねぇで、調子に乗ってんじゃねーぞ!!」
一体……何発殴れば気が済むのだろう。
乾いた音から、粘着性のある音に変わり……残酷な程鈍く響く。
「何の後ろ盾もねぇ、根性もねぇテメェは……もう終わりなんだよ。カスがッ!」
倒れた屋久の手が、床に転がったまま……微動だにしない。
「随分、震えてますね」
触れた僕の頬を、男の指がゆっくりと這う。
その反応が、面白いんだろう。耳の後ろを擽るように指先を滑らせた後、黒革の首輪の上を通って鎖骨をなぞる。
「そんなに怖いですか?」
「……」
「いいですよ、暴れても。それ以上の力で押さえつけるまでですから」
口端をクッと持ち上げた男が、無抵抗の僕の上に跨がる。
「寧ろその方が、興奮するので……」
「……!」
そうしながら僕の背中に手を回し、縛られた手首を解く。
だから早く抵抗してみせろと、僕に示唆しているんだろう。
けど……
「……、」
外れた瞬間──男の腿に手を付き、思いっ切り身体を捩る。男が腰を浮かせてできた隙間が、思った以上にあったんだろう。うつ伏せになると、肘を付いて必死に上へと這う。
その姿は先程の基泰のようで、自分でも滑稽に感じた。
「……さぁて、どうしますか」
嬉しそうに独りごちた男に、腿裏を触られる。
必死で伸ばした手──その指先に触れたのは、枕。
「……ぃ、やだっ!」
ギュッと目を瞑り、掴んだそれを宙に振り上げる。必死で身体を捩って。
例えそれが、滑稽だろうと何だろうと構わない。
──僕は、ここから逃げるんだ!
パシッ
何の手応えもなく、乾いた音を立てて枕が軽々弾かれる。
ベッドに転がったそれが、視界の端から消えていく。
「いいんですか、それで。ビデオを撮り終えたら、今後の運命が決まるんですよ」
「……っ、」
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