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第519話
キュッと唇を引き結び、再び匍匐 前進する。と、膝立ちしていた男に腰を掴まれ、軽々引っ張り上げられる。
突き出したお尻。四つん這いになったその格好は、余りに危険で……
「……ゃめ、っ!」
キュッとシーツを掴み、懸命に逃げようと足を動かす。しかし、相手は筋肉隆々のせいか、赤子の手を捻るように僕を引っ剥がし、ひっくり返してベッドの上に転がす。
「……!」
咄嗟に──迫る男を強く蹴る。が、びくともせず、逆に足首を片方取られてしまった。グイッとそのまま引っ張り上げられ、再び露わになる、局部。
「……」
サッと血の気が引く。
引っこ抜こうと暴れ、もう片方の足で男を蹴る。
「随分と幼稚な抵抗ですね。
……この程度なら、うちに掃いて捨てるほどいます」
「……」
「僕が見たいのは……基成 のアソコを噛み千切った瞬間の、あの妖艶な顔です」
「……!」
パンッ……
振り上げられた大きな手が、僕の頬を引っ叩く。
「ほら。早くしないと……喰われちゃいますよ」
「……」
愉快そうな男の声。
頬に残る、痺れと腫れぼったさ。
全てを、否定される……
この抵抗も。僕の存在も。
……でも、考えてみれば……
今までだって、そうだった。
三つ年上のアゲハばかりがもてはやされて、当然のように母から無償の愛を注がれて……
僕はいつも、蚊帳の外だった。
ハイジや竜一、寛司と出会って……皆が余りに僕の事を見てくれるから……
……だから、少しだけ……勘違いしただけ。
屋久も言ってた。
僕を必要としている訳じゃない。
此処にいる人達は、僕の中にいる『若葉』を求めているんだって。
──ドク、ンッ
え……
突然心臓が、胸を突き破る程の大きな鼓動を打つ。
どうして……
何でなのか、よく解らない……
身体の深部が、熱い。
次第に心臓の鼓動が早くなり、手足の末端に流し込まれる血液が……灼けるよう。
……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、
乱れる呼吸をそのままに、閉じそうになる瞼を必死で持ち上げ……男を見る。
揺れる視界に滲んで映る、僕の片足。
ふくらはぎの内側に、ピンク色をした小さい……シールのようなものが。
え……
……まさか、これ……
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