526 / 558

第523話

「……あ、」 力が、抜ける…… 脇腹を撫でられ、胸元へと肉を寄せられ、その先端をしゃぶられる。 柔らかい熱に包まれ、吸われながら、ずぶずぶと……快楽に溺れていく── 気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい…… ……もっと、もっと…… 欲しい…… ……だめ、気持ちいい……ダメ…… 何処からともなく湧いて溢れる水。 既にベッドの高さまで、この部屋が水没している。 身体が、背中から沈む。……沈んでいく。 小さな波が立ち、水面が揺れながら、僕の身体全てを飲み込むと、目の前に綺麗な網状の水面模様が見えた。 男が、水に沈んだ僕を覗き込みながら……何か話し掛けてる。 ……だけど、水中では良く聞こえない。 おかしい。 水の中に沈んでいるのに……余り苦しくない…… 水面が、少しずつ離れていく。 ……あ…… 腰を掴まれ、グイと引き上げられる。下半身だけが、水面より上に出る。 ズンッ、と腹の奥に強く打ち込まれる、男の楔。 僕がこれ以上沈まないように……食い止めてくれたのかな…… ズッズッズッ…… 何度も打ち直され、びくびくとナカが脈動すれば、強く擦れた内壁から甘い快感が滾り、肌の表面を走り抜ける。 ……あ、ぁあ″…ぁぁ…っ、! と同時に、波に飲まれた砂山のように……意識が、崩れていく…… ──ドォンッ 突然響く、大きな音。 水中のせいか。鈍くて、尖りを丸くしたような……余り迫力のない音。 なんだろう……花火……? キラキラと光る水面上に散りばめられた、色鮮やかな赤い飛沫。 ……あ、ダメ…… やだ、離れちゃ……ヤだ…… 打ち込まれた楔が、僕から外れる。 僕の顔から人影が消え、一人取り残された僕は、溢れ続ける水の底にゆっくりと身体が沈んでいく。 助けて…… ……僕を、離さないで…… 既に遠く離れてしまった水面に向かって、必死に手を伸ばす。 ──ガシッ その手を、大きな手に掴まれ……一気に引き上げられる。 「……さくら、」 呼ばれて、薄く開けていた瞼を懸命に持ち上げる。 びしょ濡れの身体は酷く重たくて。でも、それを支えてくれる腕は……酷く温かくて、頼りがいがあって── ……知ってる……この感覚。 この匂い。 「………りゅ…、ち……?」 そっとその名を呼べば、視界の中で薄ぼんやりとしていた顔の輪郭が、少しだけハッキリとしてくる。 切れ長の眼に、スッと通った鼻筋。 シニカルな笑顔が似合う、クールで格好いい……僕の大好きな、竜一。

ともだちにシェアしよう!