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第523話
「……あ、」
力が、抜ける……
脇腹を撫でられ、胸元へと肉を寄せられ、その先端をしゃぶられる。
柔らかい熱に包まれ、吸われながら、ずぶずぶと……快楽に溺れていく──
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい……
……もっと、もっと……
欲しい……
……だめ、気持ちいい……ダメ……
何処からともなく湧いて溢れる水。
既にベッドの高さまで、この部屋が水没している。
身体が、背中から沈む。……沈んでいく。
小さな波が立ち、水面が揺れながら、僕の身体全てを飲み込むと、目の前に綺麗な網状の水面模様が見えた。
男が、水に沈んだ僕を覗き込みながら……何か話し掛けてる。
……だけど、水中では良く聞こえない。
おかしい。
水の中に沈んでいるのに……余り苦しくない……
水面が、少しずつ離れていく。
……あ……
腰を掴まれ、グイと引き上げられる。下半身だけが、水面より上に出る。
ズンッ、と腹の奥に強く打ち込まれる、男の楔。
僕がこれ以上沈まないように……食い止めてくれたのかな……
ズッズッズッ……
何度も打ち直され、びくびくとナカが脈動すれば、強く擦れた内壁から甘い快感が滾り、肌の表面を走り抜ける。
……あ、ぁあ″…ぁぁ…っ、!
と同時に、波に飲まれた砂山のように……意識が、崩れていく……
──ドォンッ
突然響く、大きな音。
水中のせいか。鈍くて、尖りを丸くしたような……余り迫力のない音。
なんだろう……花火……?
キラキラと光る水面上に散りばめられた、色鮮やかな赤い飛沫。
……あ、ダメ……
やだ、離れちゃ……ヤだ……
打ち込まれた楔が、僕から外れる。
僕の顔から人影が消え、一人取り残された僕は、溢れ続ける水の底にゆっくりと身体が沈んでいく。
助けて……
……僕を、離さないで……
既に遠く離れてしまった水面に向かって、必死に手を伸ばす。
──ガシッ
その手を、大きな手に掴まれ……一気に引き上げられる。
「……さくら、」
呼ばれて、薄く開けていた瞼を懸命に持ち上げる。
びしょ濡れの身体は酷く重たくて。でも、それを支えてくれる腕は……酷く温かくて、頼りがいがあって──
……知ってる……この感覚。
この匂い。
「………りゅ…、ち……?」
そっとその名を呼べば、視界の中で薄ぼんやりとしていた顔の輪郭が、少しだけハッキリとしてくる。
切れ長の眼に、スッと通った鼻筋。
シニカルな笑顔が似合う、クールで格好いい……僕の大好きな、竜一。
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