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第524話
キラキラと煌めく視界の中で、居るはずのない人物がスローモーションで残像を描きながら動く。
金属バッドをフルスイングし、逃げようとする隼人の頭部を吹っ飛ばす……辻田。
後ろ手で縛られ、猿ぐつわをされた基泰の結束バンドを外す……モル。
パソコン画面の中で、会員制SMクラブオーナーを襲う……黒尽くめの男達。
──嘘だ。
信じられない。
こんなの、現実なんかじゃない。
だって、今までどれだけ願っても……決して叶う事はなかったのに。
何の前触れもなく、今、助けが来るなんて……到底思えない。
それに──さっきから目に飛び込んでくるものの全てが………不可思議な幻覚だってのは、頭の何処かで解ってる。
いつの間にか、催淫作用のあるMDMAを打たれてしまったから。
……だから……違う。
違う。
これは、僕の願望。
もう一度、会いたいと思っていた……竜一の幻影にすぎない──
「──さくらっ、!」
僕を抱き上げた竜一が、必死な形相で僕の名前を叫び続ける。
濡れた髪。たらんと垂れ下がる腕。
それぞれの末端から、生暖かな液が、ぽた、ぽた……と滴り落ちる。
「ああ、クソ。……さくらをこんな目に遭わせた奴ら、全員ぶっ殺してやる!」
「……」
だめ、だよ……
そんな事したら……竜一が、汚れちゃう……
重たい瞼を何とか持ち上げ、竜一をぼんやりと見つめる。
「悪かった。……直ぐに、助けてやれなくてよ……、」
「……」
そんな、哀しい顔をしないで。
そう言いたいのに……何だか、身体がおかしくて。
声を発せないまま、竜一を見つめる。
小さく揺れる双眸。その切れ長の綺麗な瞳が、潤んでいるのに気付く。
「随分、抵抗したんだな。辛かったよな……さくら」
僕を支える竜一の腕が、手が、僕の首から後頭部を支えてギュッと抱き締める。
トクン、トクン、トクン……
竜一の心音が、掠れた視界の中でメビウスの輪になって踊り続ける。
……僕を、勇気づけてくれてるのかな……
ヘンなの。
「……こんなに、痩せちまってよ……」
肩越しに僕の顔を埋め、息を吐き出すように竜一が呟く。その声や、僕を支える手が、何処となく震えているように感じた。
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