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第525話

「……」 ……竜一、泣いてるの……? どうして…… 前みたいに、シャワールームに連れ込んで『痛いの、好きだろ』って…… 淡々と後処置だけして、僕を突き放したり……しないの……? モルに全てを任せて……直ぐに何処かへ行ったり、しないの……? こんなに必死で。 こんなに感情を剥き出して、乱れる竜一は初めてで。 心配させないように、したいのに…… 心配されているのが……何だか心地良くて。 嬉しくて。 僅かに開いていた目を閉じ、竜一に身を預け、心ごと全てを委ねる。 「──今、助けてやるからな……!」 震える竜一の手が、そっと僕の後頭部を撫でた後、しっかりと僕を抱え直す。 そして足早に、開け放たれたドア──大きな口を開けて待っている、部屋の出入口をくぐり抜けていく。 「……」 もしこれが、死ぬ間際に見せる走馬灯の一種で…… 僕の望んだ、幸せな末路を描いた映像なのだとしたら── ……こんな、嬉しい事は……ない…… だって、最期の最後に…… 竜一に抱かれる感触も、微かに香る煙草混じりの匂いも……乱れた呼吸も、僕を呼ぶ声も…… いっぱい、感じながら──逝けるんだから。

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