535 / 558
第532話
「……お前、蕾の弟なんだって……?」
あの日。夜景の見える展望台の駐車場にて。
両脇を抱えられ、ワゴン車に乗せ替えられたモルは、首にタトゥーの入った運転手の男──真木に話し掛けられる。
「うちのグループは、他と違って優しくないからな。……覚悟しとけよ」
強い口調で車内に響かせれば、モルの隣に乗ったチャラそうな男──愁 が、運転席の肩部分をリズミカルに叩き、バカみたいに燥いだ。
その言葉通り、暫くすると新人教育という名の洗礼──性的拷問の実践練習が行われた。某ビジネスホテルの一室。縛られた手首。その紐が、ベッドの柵に括りつけられた、小柄な女性。
「……お前、オンナの一人や二人、抱いた事あるんだろ?」
「何せ、蕾の弟だからなァ……!」
真木の言葉に乗っかって、隣で茶化す愁。
開けた胸元。スカートの裾から覗く、太腿。破けたストッキング。
その骨格や雰囲気から、直ぐに女装子──愛沢響平だと気付く。
「いや、オトコか……」
「……」
そう呟き、口の片端を持ち上げる真木。この状況にも関わらず、強気なつり目を真木からモルに向け、気迫だけで跳ね返そうとする響平。
「……まぁ、どっちでもいいや。
誰の指示で動いていたのか、……口を割るまで犯 れ」
言うか言わないかのうちに背中を押され、蹌踉けたモルがベッドの足元に両手をつく。
伏せた顔。眉間に深い溝を刻んで。
「……クク、……アハハッ、」
その様子が可笑しかったのだろうか。突然響平が、堪えきれずに吹き出す。
「ソイツが、ボクを?!……笑わせないでよ。見るからに童貞クンが、夜通しボクの相手なんか、出来る訳──」
「──相手なら、ここにもいる」
それまで、黙って遠くのソファに座っていた八雲がスッと立ち上がり、その傍らで大人しく床に座っている蕾にチラリと視線をやる。
「お前なら知ってんだろ、響平。……コイツは黒くて長いものを見ると、誰彼構わず強姦 しまくるんだよ」
「……」
八雲の言葉に、響平が息を飲む。その雰囲気が伝わったのか。目隠しされたままの蕾が、八雲から響平へと顔を向けた。
「なぁ、響平。俺らはギャラリーじゃねぇんだ」
ジャラ……
黒革の首輪。それを見せ付けながらベッドへと近付く。そして響平を見下ろすと、穏やかな顔付きで丁寧に首に巻き付ける。
「……、」
その時、八雲の唇が響平の耳に寄せられ、何やら耳打ちする様子が窺えた。
ともだちにシェアしよう!