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第533話
「真木、話があるそうだ」
上体を上げ此方に顔を向けた八雲が、柔やかな表情を浮かべて真木を手招く。
その手招きに溜め息をついた真木が、一瞬面倒臭そうな表情を浮かべた後、それに従う。そこから三人で話し合いの様なものが始まれば、その間モル達はすっかりと蚊帳の外だった。
「あー、そうだ」
やがて話が纏まり、部屋を出ようとした真木がドアノブに手を掛けようとして止める。
「報告する為の証拠が欲しい。……教育も兼ねて、あの新人に一回ヤらせとけ」
振り返り、八雲に視線を送った真木が顎で使う。
「……鬼だな、お前」
「なら俺は、優しい鬼だな」
シニカルな笑みを見せた後、その様子を窺うモルを睨みつける。
「お前……野郎を庇ったせいで、スネイク に連れて来られたんだってな」
「……」
「どうせ惚れてたんだろ? ソイツをさくらちゃんだと思って、一発ヤってみろよ」
カチャ……
持っていたハンディカメラを静かに構えた八雲が、驚きを隠せないモルの姿を液晶画面に収める。
「……惚れてるとか、そんなんじゃ、……ないッス……」
ギリッと奥歯を噛み、真木を睨み上げるモル。液晶越しにその姿を見た八雲が、口の片端をクッと持ち上げた。
「……姫は、俺の『希望』なんッス……!」
握り拳に力を籠め、そう言い切る。
瞬間、その場の空気がピンと張った。
「……へぇ」
カメラを顔の前から外し、八雲が冷たい蒼眼でモルを見下げる。
「そこまで惚れちゃってんだ。……でも、残念。その大事なお姫さまは、五十嵐──姫の世話役が、菊地さんから掻っ攫うらしいよ」
淡々と語りながらも、人を小馬鹿にしたような声色。その様子を、ドアを背にした真木が腕組みをして傍観する。
「……そしたら、助けに行くッス」
「……」
「俺の『幸せ』は、姫が幸せになる事ッスから……!」
ダッ、
その瞬間──音も無くモルの脇を突っ切る、黒い人影。
目元を覆っていた厚手の手拭いを外し、ベッドに飛び乗れば……
ビリビリ……、ビーッッ、!
瞬きよりも速く、女装子の服を引き千切り──
「……っ、ゃ……めろッ──!」
ハァ、ハァ、ハァ……
──びちゃ……クチャ、じゅる……
荒々しい息遣いと共に聞こえる、卑猥な水音。
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