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第535話

寛司が亡くなった日の朝。 中々姿を現さない五十嵐を訪ねた掛け子の一人が、テントの中で変わり果てた姿の寛司を発見。そこに何くわぬ顔で登場した吉岡が、その場を冷静に沈めた後、深沢に通報。五十嵐とさくら。両者の姿が無い事から、二人による犯行だと推測された。若葉の血を継ぐさくらが、妹を想う五十嵐を誑かしたのでは、という仮説を付け加えた上で。 「それで……緊急会合が開かれたんッス」 「……」 もしかして吉岡は、もう一つの目的──昏睡状態の若葉を目覚めさせた後、僕と五十嵐に菊地殺しの罪を着せて、スネイクに始末させようと……? 想像しただけで、ゾクッと身体が震える。 コンコン…… 突然のノックに、驚いたモルが振り向く。いつの間に近付いたんだろう。ひょろりと背の高い男の拳が、停車中の窓硝子の向こう側に見えた。 「久しぶり、類くん。元気だった?」 車のウインドウを下げている途中で男が屈み、柔和ながらニヒルな笑みを浮かべた顔をひょいと覗かせる。 「……吉岡」 それは──菊地さんの遺体が発見された日の午後。スネイクの緊急会合場所であるビルのパーキングエリアで、深沢からの命令により、モルがカーラジオを聴きながら待機していた時だった。 「運転手が板についてるね。……流石。主人に忠実な、モルモットのモルくん」 「……」 「生前の菊地さんに、世話して貰ったんだって?……良かったね。兄の蕾とは違って類くんは、見境なく男も女も抱けないから」 「……ッ!」 全てを知った上での嫌味に、カチンと頭にくる。ハイジのチームでも、年齢でも先輩で。まだこの世界に馴染めなかった一番の理解者で。世話や面倒を見てきたのは──モルだ。 「……吉岡ッスよね」 「何が?」 「菊地さんを殺すよう、姫を脅して指示していたのは」 下から睨みつければ、柔和な笑顔が解れる。 「人聞きが悪いね。憶測でものを言うのは辞めた方がいいよ。 どうして僕が、そんな事をすんの? 菊地さんが死んで、僕に何のメリットがあんの?」 「……」 「そもそも姫を菊地さんに宛がったのは、辻田さんだよね。……それに類くんだって、姫を助けたいって動機が充分あるでしょ?」 不敵な笑みを残し、手をひらひらとさせながら吉岡がビル入口へと去っていく。 「確かに、証拠も動機もないッス。……でも、その言動で確信したんッスよ」 「……」 「全ての元凶が、吉岡だって事に」

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