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第537話
瞬間、思い出されたのは──ボルトクリッパーで男の頭をフルスイングする、ハイジの姿。刃先から滴り落ちる、鮮血。
ハイジは、暴力団員じゃないって言ってた。なのに、あの時辻田と一緒にいたのは──ただ恩義があったってだけじゃなくて、スネイクの斡旋グループ下にある、処理班に所属していたから……?
「なんで、桜井さん──大友組の幹部で、スネイクの親みたいな人なんスが。その桜井さんへの上納金を稼ぎ出す為に、条件付きで容認していたらしいんっス」
「……」
ハイジの事を思うと、胸が痛い。
トクトクと心臓が早鐘を打ち、ストックホルム症候群の症状に似た感情が湧き上がってく。
「売り捌く麻薬の種類と流通量の徹底管理。斡旋グループ以外による『売り』行為の禁止。余所者の『売り』行為に対しては、徹底的に排除」
「……」
「リーダーが深沢さんになる前は、かなり酷かったらしいっスから」
その時の話なら、屋久から聞いてる。
独自ルートを築いて麻薬を売り捌き、スネイクを大きくしたって。
……まさか、それらルートも全て、屋久から掻っ攫ったって事……?
「……」
桜井──寛司の父親であり、屋久を捨て駒にした大友組幹部。
この人が、全ての元凶のような気がしてならない。
「で。その調教された女の子ッスが、黒革の首輪をしてたんッス。……ほら、姫と同じ」
モルが、自身の喉元を指差す。
「彼女──腕や胸元に、痛々しい青痣や傷があって。虚ろな目してたから、気になったんッスが……調教師と運びの男二人に挟まれて座ってたんで、話し掛けられなかったんッス」
一瞬だけ眉間にしわを寄せ、此処にはいない調教師達に軽蔑した眼を向けたような気がした。
長い事車を走らせ辿り着いたのは、繁華街の外れにある煌びやかなビルの入口前。そこで、後部座席の三人を降ろす。
昨夜から降りしきる雨のせいで、フロントガラスは視界不良。ワイパーの速度を少し上げ、空になった車を指示通りに裏路地へと移動すれば、妖しげな店や看板等の電光が、フロントガラスに反射して滲む。
雨ともあって、客引きや通行人の姿は殆どない。
「そん時、ビルの裏口から現れたのが──五十嵐ッス」
「……え」
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