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第540話

──『助かって良かったね。……て言いたい所だけど。あのまま死んじゃった方が、君にとっては楽だったかもしれないね。 極度の栄養失調。……それと、レイプによる感染症』 コツコツコツ…… 『心配しなくていいよ。直ぐにどうこうするつもりはないから。 姫にはこの先、やって貰わなきゃならない事があるしね』── 「──!!」 再生されたそれは、悪意を含む吉岡の肉声であった。 ──『さて。何か聞きたい事はある?』 『──五十嵐、は……?』 『くッ、ハハハハッ!! 聞きたい事ってそこ?! 姫をレイプした相手がそんなに心配なんだ…… やっぱ姫って、世間知らずのお『姫』様……なんだねぇ』── さくらの、擦れて消え入りそうな声。それに被せるように失笑し、食いものにするかの如く罵倒する吉岡の声。 「……、お前」 その間五十嵐は、分が悪そうに俯く。 それまでの行動の意味がモルの中で繋がれば、五十嵐に対する嫌悪感で満ち溢れる。 ──『………どうして菊地さんが殺されたのか。その理由は知りたくないんだね?』── 本題に入ると、静物のように反応の無かった深沢の指先がピクリと動く。 ──『姫が世話になっていた凌の事は、良く知ってるよね。その凌が、元太田組と繋がりのあるスネイクに殺された事も』 『……』 『……それを知った兄貴分の八雲が俺に近付き、凌を殺した組織(スネイクの)リーダーに報復したいと、この計画を持ち掛けてきたんだよ』── 「………八雲、か」 深沢が小さく声を洩らす。 「お前、知ってるか?」 「はい。菊地さんが抱えていた、狩りグループの一人ッス」 「……お前が前にいた所か……」 そう洩らしながら、深沢が顎先に指を掛ける。何かを考えているかの如く、少しだけ揺れる視線。それが、モルから五十嵐へと移る。 「しかし、これだけでは……工藤さくらが実行犯ではないという証拠にはならない」 「──でもっ!」 顔を伏せながら、五十嵐が声を張り上げる。床に付いた手を震わせながら。 「やったという証拠も、ないですよね」 「……」 五十嵐の言葉を受け、僅かに持ち上がる瞼。瞳が小さく揺れた後、唇の片端がクッと持ち上がる。 「成る程」 「……」 「菊地の、女を見る目は正しかった……って事か」 そう吐露した深沢の目が鋭く尖り、五十嵐ではない何処か遠くを睨む。

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