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第541話
「そっからが、早かったッス」
事件に関係の深い二名──大友組の辻田龍成と虎龍会の山本竜一が、深沢によって集められた。
内部抗争中でありながら、両者が顔を合わせる光景に、その場に居合わせたモルは息を飲む。
「まず、八雲について」
それまでの経緯を掻い摘まんで話した深沢が、淡々と話を進める。
「五十嵐の供述によれば、外面を変え、偽名も使っている。……因みにこれは、スネイク処理班の時の顔だ」
二人の前に出された写真。そこには、アッシュブラウンの短髪にリングピアス。整った顔ではあるものの、何処にでも居るような、これといった特徴のない顔。
「最後に見た奴の姿は、金色の長髪に蒼いカラコンをしていたそうだ。
工藤さくらとは、以前にその姿で知り合っていたらしいが……詳しい経緯や時期、場所についは不明だ」
深沢が、意味ありげに山本をチラリと見る。それに気付いた山本が、深沢と目を合わせると、ロックしたまま睨み返す。
「恐らく……再び容姿と名前を変え、別人に成りすまして何処かに潜伏している筈だ。情報の少なすぎる八雲を捜し出すのは、極めて難しい」
「……」
「が。逆に、今や人脈無しでは生きられない吉岡の方が、見つけやすいだろう。
八雲を捕まえる為には、まず吉岡を生け捕りにして、奴の情報を得る必要がある」
「……」
吉岡を捕まえ口を割らせれば、工藤アゲハの隔離先が解る上、菊地殺しの主犯である八雲についての情報を得られる。居場所を突き止めれば、工藤さくらを救い出す事もできる。
三者がそれぞれ求めるもの──それを実現する為には、お互い腹に据えかねたものを飲み込む必要があった。
それ故、いつ誰が裏切るとも限らない程、その結束は脆く儚いものであった。
「人徳はなくとも、顔は広い。……吉岡を匿い、恩を売る輩は少なからずいるだろう」
「……ああ」
「一筋縄じゃ、いかねぇかもな」
しかし吉岡は、その予測に反しアッサリと見つかった。
人を信じ切れなかった所為か。それとも、人徳の無さが招いた結果か。
誰に助けを求める訳でもなく、比較的安価なインターネットカフェの個室に一人、息を潜めていた。
頭脂でツヤツヤに濡れた天パ。無精髭。薄汚いシャツ。肩に乗った頭垢。虚ろな眼。
「……」
これまであったオーラはすっかり抜け落ち、同じ人物とは思えない程、見窄らしい姿に成り下がっていた。
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