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第543話

……え…… 「じゃあ、深沢は……八雲が屋久だって、最初から知ってたの……?」 「……え、」 思わず、口から溢れてしまった声。 モルに焦点を合わせてじっと見つめていれば、それまで流暢に喋っていたモルの動きが止まる。 「えっと……、それは、俺にも解んないッス」 少しだけ見開いた瞳を、答えながら大きく揺らす。 「……龍成さんと吉岡捜しに出掛ける時、コッソリ深沢さんに言われたンっすよ。『もし辻田が裏切るようなら、これ以上の情報は開示出来ない、と伝えてくれ』って……」 「……」 ──違う。 さっきの言い方と……、違う。 動揺を覗かせたモルから目を逸らし、ぼんやりと天井を見る。 「……」 多分……知ってた。 だって深沢は、コブラの基泰と繫がっていたんだから。 それに……思い返してみれば、モルの話には腑に落ちない所があった。 どうして深沢は、寛司が抱えていた狩りグループのメンバーを知りながら、八雲を把握していないのか。 真木と同様に、事故として処理しないのか。 幾ら髪型や髪色を変えた所で、八雲がコブラの屋久だと、直ぐに気付いた筈。 整形前の……スネイクリーダー時代の屋久ならまだしも。 「……!」 ──そうだ。 基泰は、元スネイクのリーダーだ。 幾ら何でも、深沢が知らない訳がない。 ドクン、ドクン…… それまで静かだった心臓が、大きな鼓動を打ち、存在を主張する。 それに── 『ひとつ、忠告してやる』 基泰に連れられて、深沢の事務所らしき場所に出向いた時……二人を取り巻く空気が、寛司の時と同じ瞬間があった。 『同じチームに、キングは二人も要らねぇ。いずれ何方かが、その座を引き摺り下ろされる時が来る。 ……スネイクの時のようにな』 確かに深沢は、そう言っていた。 「……」 ……ドクン、ドクン、ドクン、 やっぱり深沢は、……知ってたんだ。 知ってて、わざと知らない振りをしていた。 ……でも、どうしてそんな事…… 考えれば考える程、深みに嵌まっていく。 幾ら考えても……深沢の心の内までは、読めない。 全身白尽くめの深沢が、唯一色を持つ瞳の奥──凪のように静かで、暗くて深い、闇、闇、闇。 そこに一体、何をひた隠そうとしているんだろう……

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