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第544話

ふと。 その闇の中で揺れる……マーブル状の、白とパステルブルー。放射する光── 瞬間。 浮かび上がったのは、淋しそうに微笑みながらも、凛とした佇まいの『倫』。 ……まさか…… ドクン、ドクン、ドクン…… 世間をよく知らない……まだ中学生の僕が導き出したひとつの仮説に、何の信憑性も持たないかもしれない。 きっと、そんな単純な理由じゃ…… 『どんなに複雑そうに見えても、蓋を開ければ理由なんて、至極単純明快なんだよ』──突然脳裏に響く、意地の悪い吉岡の声。 ひやっとする脳内。 それに臆し、直ぐにその考えを打ち消そうとする。 ……でも…… もしそれが、本当なのだとしたら。 深沢は、最初から全てを知っていて……敢えて寛司を見殺しにした──? 「……」 思い返せば、初めて深沢に会った時──媚薬に犯され、遠退く意識の中で聞いた寛司との会話に、何となく引っ掛かるものがあった。 例え代理であったとしても、スネイクリーダーが何も知らない筈がないって。 その発端は、恐らく──『倫』。 倫が、寛司に未練を残している事に気付いた深沢は、二人の仲を疑うようになった。アトピー治療として、寛司が倫の店に通う度に、その先の治療──身体の関係まで、あるんじゃないかって。 寛司にデリヘルを手配したのは……それを阻止する為。倫に、寛司を諦めて貰う為。 だけど。倫の心は……変わらなかった。 性欲モンスターと言われる寛司の、何処に倫を惹き付ける魅力があるのか。悩み抜いた末、自分には持ち合わせていない『聖人君子』的な部分では……、と気付く。 そこで、シャブ漬けにされそうな嬢達を柄にもなく助け、取り巻きにした。倫が振り向き、少しでも嫉妬してくれる事を願って。 でも……それがかえって、倫を遠ざける結果となってしまった。 そんな中、僕が現れた。 『菊地殺し計画』の噂を耳にしていた深沢は、寛司を見殺しにし、その実行犯を制裁する事で、倫の全てを取り戻そうと── 「………モル」 もし、この仮説が真実だとしたら…… 「モル……、僕ね。コブラに捕まってた時……基泰と一緒に、深沢と会ってる」 「……!」 手が、声が……震える。 「深沢は、八雲が屋久だって……やっぱり知ってたんだと思う」

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