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第545話

コンクリ事件──深沢は、過去の一件を反省なんかしていない。 コブラが所有する麻薬関連の全てを奪い、多くを売り捌く事で、スネイクを大きくし…… 自分が、寛司以上の力がある事を誇示しようと目論んでいたとしたら…… 「知ってて、竜一を利用して……」 「──そうッス!!」 叫びにも似た、モルの声。 強い意思を持つそれが、言葉のその先を綴らせまいと、邪魔をする。 「そうッス。……でも、たかが半グレ(スネイク)深沢さん(お飾り)に使われる程、竜さんは馬鹿じゃないッスよ」 「………え」 余りにアッサリ認めるモルに、戸惑いを隠せない。 「さっき、龍成さんに言った台詞。……あれ、実は竜さんの台詞なんッス」 「……」 少しだけ俯き、後頭部に手を当てたモルが、苦笑いを浮かべながら口を開く。 「竜さんは、深沢さんと屋久の繫がりを、最初から疑ってました。……勿論、深沢さんの思惑も」 「……」 「解ってて、わざと騙されてるフリをしていたんッス」 え…… ……どういう、事……? 混乱しながらも、モルをじっと見つめていれば、顔を上げたモルが、眉尻を下げたまま弱く微笑む。 「内部抗争のキッカケ、知ってますよね」 「………うん」 以前、聞いた。 虎龍会の美沢大翔が、太田組組長の跡を継ぐ事になったけど。まだ若すぎるからって理由で、幹部達に反対されて── 「その火種に油を注いだのが、コブラっす」 「……」 抗争が始まったばかりの頃。大友組のシマ内で、大麻を売り捌いている余所者がいるとの噂が立った。 それは、通常レートよりもかなり安価で。顧客は次々と其方に流れていったという。 「龍成さんが、その荒らし者(売り子)を炙り出して捕まえた所……竜さんの名前を吐いたらしいんッス」 「……え」 ──だから。 あの日、ハイジを引き連れた辻田が……突然竜一のアパートに乗り込んできたんだ。 「嵌められたのは、誰がどう見ても明らかなんッスが…… 一度燃え盛った火の勢いは、もう止められそうになかったんッス」 「……」 僕にとっては、あれが全ての始まり。 あの時の光景が、否応なく目の前に描き出され、胸が張り裂けそうになる。 「それで、美沢さんに呼び出された竜さんは、その落とし前をつけるよう言われて。……今まで、動いてたんッス」 「……!」

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