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第547話

「それに。捕らえた吉岡が、ピアスを……竜さんと同じピアスをしていて、問い詰めた時──」 『……酷いなぁ、竜さん。 僕は、今までずっと……姫を捜す協力をしてきたじゃないですか』 『そもそも、姫を菊地さんに宛がったのは、辻田さんですよ。……あぁ。その前に、元彼のハイジに調教するよう、命じたんでしたっけ。 本当、底意地が悪いですよね、辻田さん。姫が竜さんのオンナであると知りながら、……実の親子である菊地とハイジ、二人に宛がったんですから』 『しっかし、強かだね。姫は。 僕が竜さんとの関係を仄めかしたら……クク。あっさり菊地に(なび)いたんだから。 あの性欲モンスターに、毎晩激しく抱かれて……満更でもなさそうだったな』 「それ聞いた竜さんが、──カッとなって吉岡をボコボコにして。あの龍成さんに止められる始末に──」 「………なに、ペラペラ喋ってんだ」 パタンッ、 閉まるドアの音と共に響く、低い男声。 耳馴染みのあるその声は、シニカルな中にも何処か色気を含み──僕の心を、切なく震わせて…… 「……お、お疲れ様ッス!」 慌てて僕に背を向け、頭を下げるモル。 「あ、……えっと俺、この後龍成さんに呼ばれてるんで……ここで、失礼します!」 「──モル」 コツ、コツ、コツ…… 足早に近付く足音が、その場を離れようとするモルを呼び止める。 「助かった。……感謝してる」 「………、うっス」 もう一度ペコリと頭を下げると、後ろに束ねた赤い髪を揺らし、ドアの方へと去っていく。 「……」 視界の殆どを占めていたモルの背中が退かれ、開ける視界。 直ぐそこに現れたのは、一際背の高い人影── 「……さくら」 先程よりも甘く、色気を含む声。 瞬間。それまでの空気が、柔らかなものに変わっていく。 ゆっくりと瞬きをし、手の甲や指先で涙を拭うと、クッキリとした視界に、ずっと待ち焦がれていた愛しい人が映る。 「………、りゅ……いち」 全身黒尽くめ。オールバック。 まだ黒いオーラを引き摺っているものの、鋭く尖った眼の奥には、柔らかな光を宿していて。 真っ直ぐ見下ろすその瞳に、瞬きを忘れた僕を映す。

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