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第549話

「……!」 荒い息を整え、感情をコントロールしようとする竜一。 言葉を選んでくれたんだろう。 本当は、僕を許せない筈なのに。 吉岡に嵌められたとはいえ、僕は竜一を裏切ったんだ。 竜一を……傷付けた…… 「……ごめんなさい……」 そう、謝る事しかできなくて。 他にどうしようもなくて。 僕が竜一を信じていれば──揺るがず、吉岡の思惑通りにならずに済んだのに。 「謝るんじゃねぇ」 「──でも、」 そう言いかけた僕の唇を、柔らかなもので塞がれる。 「……!」 空気のように。 唇の先端が柔く触れた後、直ぐに離される。 そっと瞼を持ち上げれば、吐息が掛かる程の距離で、竜一の潤んだ瞳が僕を見つめていて…… 「悪かった。……直ぐに、助けてやれなくてよ」 「……」 瞳を揺らす竜一が、あの日と同じ台詞を吐く。 小さく頭を横に振れば、もう片方の手が僕の頬を優しく包み込み、親指の腹で涙の跡をそっと拭う。 「………は、っん……、」 唇が重ねられて直ぐ、差し込まれる熱い舌。 さっきとは違う……息ができない程、激しくて。 おずおずと舌先を差し出せば、取り逃すまいと絡み付き、強く吸い上げられる。 「んぅ、……」 ……竜一の、匂い…… オスの匂い。 柔らかくて、温かくて。 竜一に触れられる全てが、甘く痺れてく…… ずっと焦がれてた。 コブラのアジトから見えるアパートが、恨めしくなる程。 もう二度と会えないと、心の何処かで諦めていた。 でも…… 『悪かった。……直ぐに、助けてやれなくてよ……、』──撮影会に乱入し、意識の朦朧とする僕を抱き上げ、そう言って涙を浮かべた竜一。 ごめんね。 もう……何を見ても、何を聞いても……揺らいだりしないから。 だから、また傍に置いて。 竜一のオンナにして。 僕を……離さないで── 霞む意識の中で見たあの日の光景が、ぼんやりと閉じた瞼の裏に映し出され──目尻から、再び涙が零れ落ちる。

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