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第550話
×××
「手、出せ」
言われるまま手を出せば、何処から取り出したんだろう小さな箱がその上に乗せられる。
良く見れば、それは竜一から貰ったピアスの入った箱で。
「大事にしろよ」
「………ん」
両手で大事そうに包み込めば、少し照れた様子の竜一が、視線を逸らす。
「これ……」
受け取ってから気付く。
箱庭に隔離されていた時、これを渡してくれたのは……Mだ。
Mは、吉岡に頼まれたって言ってたけど……
「僕が捕まってた時、渡すようMに言ったのって………竜一?」
「──そうだ」
間髪を入れず、ハッキリと竜一が答える。
「Mには以前、大きな貸しがあるからな」
「……」
「凌の下で斡旋していたのを、見逃してやったんだ」
斡旋……Mが?
ふっと浮かぶ、Mの冷徹で無表情な顔。女子高生にも関わらず、屋久とも基泰とも対等に渡り歩いていた姿は……凜としていて格好いい。
どういう事情があって、アンダーグラウンドに足を踏み入れたのかは解らないけど……
『私はあんたの事、嫌いだから』
──そっか。だからMは、僕にあんな台詞を……
「さくらの監禁場所を突き止める目的もあったが──何より、お前が衰弱してると聞いて、支えになればと思ってよ」
「……」
確かに、これがあったから……
出口の見えない真っ暗なトンネルの中で、一筋の希望の光が見えた。
自分の力だけで、脱出しようと思えた。
「……退院したら、付けてもいい?」
包んだ手を広げて、受け取ったピアスの箱を竜一に見せる。
「……僕ね、竜一の言う通り……これがあったから頑張れたの。
自分の力で、あのアジトから抜け出そうとして。折り畳みのカミソリとか、隠して。
でも結局、捕まっちゃったんだけど。それでもね、玄関の所まで逃げられたんだよ」
「……」
「これを付けて、いつも竜一を感じてたい。会えない日も、竜一が傍にいるんだって思えたら……きっと、淋しくない」
「……」
「………ダメ?」
何の返事もなく、急に不安になる。
『似合わねぇな』──最後にアパートで一緒に食事をした後、僕の耳にピアスを宛がった竜一に言われた台詞が蘇る。
もしかしたら本当に、僕には似合わないのかもしれない。
でも、それでも構わない。
だって。例え目には見えなくても、このピアスの存在が、竜一と僕を繋いでくれると思うから──
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