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第553話

いや…… それよりもっと、酷い。 『 体調が戻ったら、ここに(ピアスホール)を開けようか』──屋久は、竜一のピアスを容認してくれた。 ……でも、アゲハは違う。 何れ僕から、何もかも取り上げてしまう── 「──おい、工藤。てめぇ言い過ぎだ!」 竜一が、アゲハに向かって何か吠えている。僕から離れて……アゲハの方に行ってしまう。 やだ……行かないで。 僕を見捨てないで……! 「……、ゃ……」 こんな事なら、助けられなければ良かった。 こんな残酷な現実が待っているなら……屋久の箱庭で永遠に、竜一の幻影と寄り添っていたかった。 「………ぃ、やだ……、」 声が、震える。 息が……苦しい…… ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、 さっきから脳内が、痛い程に痺れていて。手足の末端から……じりじりと感覚を奪っていく。 狭まっていく視界に砂嵐のようなものが現れ、二人の姿を隠していく。 「──さくら?!」 「近付くんじゃねぇ!!」 アゲハの驚く声。それを直ぐさま遮る竜一の声。 ギシ…… ベッドの軋む音がしたかと思うと、大きな手が僕の二の腕を掴んで引っ張る。 横向きにされた身体。ベッドから離れた背中を、大きな手がゆっくりと摩る。 無骨ながら、頼りがいのある……竜一の手。 「……大丈夫だ。大丈夫だから……ゆっくり呼吸しろ。ゆっくり、だ」 ……はぁ、はぁ、はぁ、 当てられた手のひら。そこから不思議と、日だまりのような温もりと心地良さが染み渡っていく。  「さっき、言っただろ。お前が大事だって」 「……」 「一緒に居てぇのは、俺も同じだ。だがよ、今の俺じゃ……悔しいが、お前を守りきれねぇ」 苦々しい声。 これが竜一の本心だって事が、伝わってくる。 「それに……お前には裏の世界(アンダーグラウンド)に居て欲しくねぇんだ。 前に言ったがよ。俺は何れ組を抜けて、ヤクザ業から完全に足を洗う。 足抜けじゃねぇぞ。キチンと除名手続きをして、堂々と表の世界をお前と生きてぇんだ」 「……」 「だからよ。お前は表の世界(オーバーグラウンド)で、待っててくれ。 日の当たる場所に生きて、俺の道標になってて欲しいんだよ」

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