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第2話
――そう、選ばれた勇者に最強の援軍をと、聖職者のエースである賢者と、魔力のある一族の生え抜きだった魔法使いがパーティに選ばれ、3人はめでたく魔王退治に出発した――はずだった。しかし、なんと3人とも無気力。村から村へと渡り歩き、歓待を受けては退治や修行に行くふりをしているのだった。
宿屋で3人は、次はどこの村を目指すか話し合っていた。
「女の子が可愛い地方がいいな」
下半身でしか物を考えない勇者が、手袋を外しながらリクエストする。
「なら北方に行くか? 気は強いが色白の美人が多いぞ」
博識な魔法使いが説明すると、勇者は身を乗り出した。
「お、いいねぇ、そうしよ」
「――美人と言えば……」
賢者が何かを思い出したように、ぽつりと呟く。「なんだよ」と勇者が問い詰めると、賢者は、真偽は分かりませんが、と前置きしてこう言った。
「魔王討伐で壊滅した騎士団の生き残りが、言ってたんですよね……『あんなに恐ろしいほど美しい魔物は見たことがない』って……」
ガタッと勇者が腰掛けていたベッドから立ち上がる。
「マジ?」
「ですから、真偽は――」
そう言い終わらないうちに、勇者は脱いだばかりの手袋を再び着用した。
「おい、何やってんだ」
魔法使いが勇者の臀部を乱暴に蹴る。
「お前らこそ何やってんだ、はやく出発の準備をしろ! 絶世の美女がいるなんて俺は全然知らなかったぞ? しかも相手は魔王ときた。好き放題できるじゃねえか……!」
しばらく沈黙してから、魔法使いがポンと手を拳でたたく。
「いいねぇ、俺そういうの大好き」
賢者もため息をつきながら立ち上がった。
「仕方ありませんね……世界を救うためですからね……」
「ほんっと口だけだな、賢者って」
勇者があきれたように賢者を見ると、本人は「この口先にだまされて救われる子羊もいるのですよ」と悪びれずに肩をすくめたのだった。
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