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第4話

 魔王はがくりと首をうなだれさせた、そしてフフフと笑い声を上げる。 「何だ、気持ち悪いな」 「いや、うれしいのだよ、勇者諸君。ついに私を倒す者が現れたのだからな……」  足下で「どういうこと?」と魔法使いがにこやかに尋ねてくる。 「もうずっと死にたかったのだ。数え切れないほどの世界を滅ぼした。滅ぼしても滅ぼしても心は満たされぬ。しかし、どの世界の勇者たちも、私を倒すことはできなかった」  魔王は編み込んだ長い黒髪を、自由の利くもう片方の手でほどく。つややかな髪がさらりとなびいた。 「さあ、殺せ。これでお前らは本当の英雄となり、私も晴れて自由になる。好きにするがいい――」  魔王はぎゅっと瞳を閉じた。   「――かわいい……」  想定外の言葉を耳にし、魔王は「ん?」と片目を開く。目の前で、頬を染めた勇者が自分をじっと見つめていた。 「……かわいい」 「いや、マジで俺も同感」  いつの間にかそばに歩み寄っていた金髪の魔法使いも、自分の顎を撫でながら魔王の顔をまじまじとのぞき込む。 「俺、男いけるかも。こいつなら」  勇者が魔王の手首をさらに強く引っ張り、自分に引き寄せる。魔王はよろめきながら、手首の痛みに驚いていた。自分に痛みを与えられる存在に出会ったのが初めてだったからだ。  顎を掴み上げて無理矢理視線を合わせると、勇者は「噂通りの超美人だし」と頬をさらに染めていた。 「お、お前ら……へ、変なことを言うな……!」  魔王は顔を背けようとするが、勇者の力に敵わず、また視線を合わせることになる。 「あ、魔王が照れてる、かーわいい」  垂れ目の魔道士が、顔を近づけてくすくすと笑っている。黒髪に指を差し入れ「髪もつやつやだ」とうっとりと目を細めた。 「や、やめろ!」  抵抗しようとすると、勇者が首をかしげた。 「さっき、好きにしろって言ってなかったっけ?」 「殺せという意味だ、馬鹿者!」 「殺生はいけませんよ」  傍観していた糸目の賢者が、会話にするりと入りこむ。魔王の額に指を当て、何かを唱えた。勇者が何を唱えたかを問うと、賢者は人差し指を唇の前に立てて小声で言った。 「もっと可愛くなるおまじないですよ、賢者が唱えるのは禁止されていますので内緒にしくださいね」

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