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第6話
「はいはい、だめだよ~」
その瞳を勇者が手で覆う。
「石にしちゃったら、気持ちよくなれないよ?」
「そ、そんなことは望んでおらぬ! 皆殺しにして、やりゅ……?」
もう一度魔力を爆発させようとした瞬間、目の前が一回転した。そして急に後ろが音を立てるように切なくなった。
「???」
混乱していると、魔法使いがにやりと笑った。「媚薬入りの潤滑油が効いてきたみたいだね、さすが粘膜は吸収が早い」と。
「あ、あ、あ……」
先ほどの淫靡な呪文に加え、媚薬まで使われてしまった――。魔王はそのきれいな金色の瞳に、じわりと涙をためた。
(望んでいない、こんな終わり方、望んでいない――)
ぽろぽろと涙がこぼれていく。
(最強の勇者に殺されたかった、悪は悪として散りたかった、まさかこんな辱めを受けるとは)
魔王は、身体の疼きと火照り、そしてめまいと戦いながら、勇者を見上げ、最後の理性を振り絞って懇願した。
「……勇者よ、お願いだ……私を殺してくれ、頼む。こんなふしだらではしたない自分に耐えられない――」
勇者は一瞬目を丸めたものの、魔王の意図を理解したのか、深く頷いた。
「恩に着る、勇者よ――」
魔王は瞳を閉じると、穏やかな気持ちで覚悟を決めた。しかし、その直後に起きたのは、額への少しの痛みだけだった。
不思議に思って目を開くと、額から少し血が流れている。
「おい、どういうことら」
媚薬がさらに効き始め、呂律が回らない。魔王が息を荒げて尋ねると、勇者はにっこりと笑った。
「魔王は今死んだ」
「――は?」
「お前はもう俺たちに負けたから魔王じゃない、ただの自由な魔物になったのだ。そして今日から、俺たちの嫁となる」
「よ、嫁……!?」
向き合っていた身体をくるりと反転させられると、背中に勇者が身体を押しつけてきた。同時にズンと激しい痛みが走る。後孔がメリメリと押し開かれ、何かの熱い肉塊に――。
「あ、ひ、あああ、ああああッ」
「もう拒否権なし」
勇者が突然、魔王を貫いたのだった。媚薬入り潤滑油のぬめりも手伝って、締め付けが強いものの、中へ中へと侵入していく勇者の雄。魔王は目の前でチカチカと火花が散ったかのような錯覚に陥った。その横で魔法使いが「俺が準備したのに~」と文句をたれている。
「ああ、魔王の中、すっげェ熱い」
勇者が遠慮なく抽挿を繰り返す。ぐちゅ、ぐちゅという水音が破壊された宮殿に響く。
「いや……っ、やめ……っ、ひァ!」
喘ぎ声が途中でさらに甲高くなったのは、魔王の雄を賢者が何の前触れもなく口に含んだからだった。
「あああぅッ、やあ……っ」
糸目の隙間から覗くブルーの瞳が、魔王を見上げる。まるで、与えられる刺激という刺激に身体が悦んでいるのを見透かしているかのように。
「はいはい、じゃあ今度は俺とちゅーしようねぇ」
軽薄な口調で、魔法使いが魔王の顎を指先で持ち上げる。最初は鳥がついばむように、次第に唇の輪郭や歯列をなぞっていく。魔王はぞくぞくしていた。なぜか舌が勝手に口から出て、魔法使いを誘い込む。
「あー、魔王って生き物はなんて可愛いんだ、夢中になりそ……♡」
その様子に魔法使いがほんのりと頬を染め、魔王の舌を吸い上げた。
「んんッ……♡」
「感じてる? 大丈夫、大切にするよ。大事に大事に、愛してあげるからね」
キスの合間に魔法使いが甘く囁き、五感が男たちに支配されていく。
魔王はなぜかそう実感するたびに、身体の芯が甘く疼き、安堵を覚えた。
(ああ……そうか)
魔王は気付いてしまった。
いつも〝支配者〟だったのだ。頂点に立つものとして、強い存在でいることを強いられた。もう数百年もの間そうしてきたので忘れていたが、いつか自分も誰かに支配されたかったのだ――と。
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